すごく日差しの強い暑い日だった。


歩くのも疲れていて、ぼーっとしていたかもしれない。

 


そんなとき、歩道橋をおりたところで、バスから降りてきた女性とぶつかった。


その女性はバランスを崩して、転んでしまった。

 

私はすぐに「すみません」と謝って、怪我がないか確認した。


女性は「大丈夫です」と言って立ち上がり、


私たちはそのまま別れたけど、胸のざわつきは


消えなかった。

 


勤務先に戻る途中、偶然その女性とまたすれ違った。



私は駆け寄って、もう一度謝った。


「さっきのことで、怪我は…?」と聞くと、


女性は袖をまくって見せてくれた。


上腕と脛に擦り傷ができていて、それを見て、

心がギュッとなった。

 

やってしまった


私のせいで?


責められるかも


そんな怖さがいっきに押し寄せた。

 


なのに正直、ほんの少しの接触だったのに、


「そんなんで倒れる?」って責めたくなる気持ちもあった。



そう思ってしまった自分に、またモヤモヤした。

 


家に帰って、その出来事を夫に話した。


でも返ってきたのは、「普段のあんたの歩き方が悪い」という言葉。


 

本当は、ただ

「大変だったね」

「びっくりしたね」って、

そう言ってほしかっただけだったのに。

 



言っても、また責められる。


話さなきゃよかった。


……そんな気持ちがこみあげて、心がぽつんと取り残された。

 


思えば、こういうのの積み重ねで、


「今日ね…」っていう日常の小さな気持ちを、


私はどこかで諦めてきたんだと思う。

 

 

 

「じゃあ、自分で自分に優しくしてみよう」


そう思って、心の中で


「がんばったね」「怖かったよね」と言ってみた。

 


けど、なんかうまく届かない。


言葉だけが浮いている気がして、


本当の私の心にはまだ、届いていない気がした。

 


でも、それでもいいのかもしれない。

 


いまの私は、ただ——

 


「大変だったね」

「びっくりしたね」

「わかってほしかったよね」

 

そう言ってくれる誰かを、求めてた。


それに気づけたことが、今の私にとっては、大きな一歩。

 

 

 

そして今、少しだけ思ってる。

 


無理にポジティブにならなくていい。


でも、ずっとネガティブにとどまってる必要もない。



ネガもポジも、ほんとはただの波で、



その時その時に、感じたことをそのまま感じればいい。

 


無理にいい話にしないこと。


でも、自分の痛みにしがみつきすぎないこと。

 


そのままの揺れの中に、静かに立ってる。



そんな今の私が、ちょっとだけ、好きかもしれない。