何度も、何度も、感情に向き合った。

一回感じれば終わるものじゃなかった。

怒り、悲しみ、寂しさ……

毎日、感情の波を一つひとつ感じ尽くした。


 

夫が単身赴任でいなくなった家。

 

広くなったはずの部屋に、ずっと寂しさが響いていた。

 

あの頃の私は、お金に不自由していたわけじゃない。


生活はできていた。


自由に生活もできていた。

 

でも、どこかずっと満たされなかった。

 

ほんとうは、もっと夫と繋がりたかった。

 

一緒にいてほしかった。

 

私の方を見てほしかった。

 

 

ずっと我慢してきた。

笑って、平気なふりをして。

でも心の奥では、ずっと叫んでた。

 

「寂しいよ」

「行かないで」

「私のこと、ちゃんと見て」

 

そして、気づいた。

 

 

私は、声が聞きたかった。

 

あの、優しい夫の声が聞きたかった。

 

それで癒されたかった。

 

緩みたかった。

 

繋がっていたかった。

 

安心したかった。

 

 

 ずっと、安堵を求めていたのかもしれない。

 

 

でも、その奥にはもっと深い想いがあった。

 

 

「私はここにいるよ」

 

「私を、忘れないで」

 

「なかったことにしないで」

 

存在が、消えてしまいそうな恐れ。

 

誰にも気づかれずに、透明になっていくような不安。

 

それを自分自身すら見ないようにしてた。

 

でも、もう限界だった。

 

 

 

その夜、私は深夜に電話をかけた。

 

心臓が壊れそうなほど緊張して、手が震えた。

 

迷惑かもしれない。

 

冷たくされるかもしれない。

 

でも、それでも、かけた。

 

 

声が聞きたくてたまらなかった。

 

存在をつなぎとめたかった。

 

 

それはただの通話じゃなかった。

 

あれは、「私はここにいるよ」って叫ぶ、私の命の証だった。

 

 

夫は最初、少し戸惑っていた。

 

でも、1時間くらい話した。

 

自分の本音を、はじめてそのまま伝えられた。

 

ずっと我慢していた想いを。

 

 

 

たったそれだけで、世界が変わったわけじゃない。

 

でも、空気が柔らかくなった気がした。

 

少しずつ、何かが動き出した。

 

 

今振り返ると、あの電話は私にとって、再生の第一歩だった。

 

命の声を、やっと口にできた夜。

 

 

次は、そのあとに訪れた小さな希望について書いてみたい。

 

ほんの少しずつ、心がほどけていった、あの日のことを。