「息を吐く」という、小さな選択が私を救ってくれた夜
⸻
昨日の夜、洗濯かごの中に見覚えのある服が入っていた。
夫が仕事に着ていったはずの洋服と靴下だった。
「ん?」と思った瞬間、全身にざわざわとした違和感が走る。
昨日、夫は「高校以来の同級生と会う」と言って出かけた。
けれど、その洋服を見たとき、ふと疑いが湧いた。
「本当に同級生と? それって、もしかして……?」
一瞬で、過去の不信感や不安が身体の奥から蘇ってきた。
⸻
洋服をわざわざ着替えるほど、楽しみにしていた相手だったの?
そう思ったとき、胸の奥がチクリと痛んだ。
負けたくない。
私だって、見てほしい。選ばれたい。
⸻
気づいたら、心臓がバクバクして、頭にカーッと血がのぼって、
まるでトンカチで殴られたような衝撃がきた。
喉が詰まり、呼吸が浅くなる。
怒りと不安と孤独が混ざり合って、身体が戦闘態勢に入るのがわかった。
⸻
いつもなら、爆発しそうな気持ちを大きく吐き出していたと思う。
でも昨日は、そうしなかった。
お風呂に入っていたこともあり、
私はただ、静かに息を吐くことを選んだ。
「息を吐いて、丹田までおろしていく」
ただそれだけを、ゆっくり繰り返した。
すると、手や喉、背中にしびれのような感覚が現れて、
身体が震え始めた。
ああ、これが私の中に溜まっていたエネルギーなんだ。
今、外に出ようとしてるんだ——そう感じた。
⸻
感情の嵐のあとに、こんな静けさが訪れた。
そして私は、静かに問いかけた。
「私は本当は、何がほしかったんだろう?」
⸻
入浴後にはあれほど荒れそうだった感情が、静かに落ち着いていて。
夫に対しても責めることなく、ただ聞きたいことを、冷静に聞くことができた。
⸻
呼吸って、すごい。
その一言に尽きる。
⸻
感情に飲み込まれるのでも、我慢するのでもなく、
ただ、今あるものと一緒にいて、呼吸で体におろしていく。
それだけで、こんなにも違う。
⸻
もしかしたら私は、誰かに勝ちたかったんじゃない。
本当はずっと、私自身のことを、大切にしたかったんだ。
⸻
だからこれからも、感情が荒れそうになるとき、
私はまず「吐く」ということを思い出したい。
それは自分を守るためでもあり、
大切な人との関係を、自分の選択で守るためでもあるから。