不眠症で、いくつもの睡眠導入剤を飲んでいる方と関わっています。
でもその方は、ずっと主治医にお薬のことをうまく相談できずにいました。
どうしてだろう。
言葉にできないつらさ、
自分でも整理できていない不安、
それもあると思います。
でもそれだけじゃない。
嫌われるのが怖い。
突き放されるのが怖い。
バカにされて、惨めになるのが嫌。
そんな、もっと奥深くにある「怖さ」が、言葉を閉じ込めてしまう。
「大丈夫です」と笑ってしまうのは、自分を守るためでもあるのだと、
そんなふうに思います。
だから今日、その方が診察室でご自身の口から
「不眠がつらい」と伝えられた場に立ち会えたことは、とても意味のあることでした。
ただ薬を調整してもらうだけではありませんでした。
主治医が、丁寧に目を見て話を聞いてくれたこと。
「大丈夫だよ」と声をかけてくれたこと。
身体に触れて診てくれたこと。
そのひとつひとつが、
「ここにいていいんだよ」というメッセージのように伝わったのだと思います。
診察が終わったあと、その方がぽつりとこぼした言葉がありました。
「聞いてもらえたのもよかったけど、先生に“伝えられた”のがよかった」
この言葉には、
「怖かったけど、言えた」
「ずっと閉じ込めてたけど、やっと出せた」
そんな安堵と静かな誇りが滲んでいました。
思えば、自分のことを話すには、安心が必要です。
「ここなら大丈夫かもしれない」
「この人には話してもいいかもしれない」
そう思えるような場、関係性、空気——
それがあって初めて、人は自分の内側を少しずつ、誰かに差し出せるのだと思います。
だから、「伝えることが大事」だと簡単に言う前に、
「安心して伝えられる場があるか」
「安心できる相手がそばにいるか」
そこに目を向けたい。
伝えられたことで、心の扉がすこしだけ開いた。
その変化の瞬間に立ち会えたことが、
わたしにとっても大切な経験になりました。