自分が本を書くなど考えてもみなかった。
友人や教師に勧められて何度も日記をつけようとしたことはあったが、いつも三日坊主におわる。
日記をつけることは文章力を伸ばす上で最も手軽で効果的であること、自分にその能力が不足していることも分かっていた。
そして意気揚々と日記帳を書い、初日に数ページびっしり埋めたかと思うと、次の日には箇条書きだけで空白だらけの1ページが。三日目にはもう忘れてしまっている。
そもそも生来ガサツなぼくは向いていなかったのだろう。
数ページ埋めただけの日記帳が増えた。
それがどうして本を書くことを決心したか。
それをこれから述べようと思う。

高校生まで田舎で育った。
ほとんどの時間を山と川を眺めていた気がする。
魚がはねる。
鳥がさえずる。
向こうの山にかかる雲の影が、川岸にいるこちらを通り過ぎ、遥か遠くの山まで流れて行く。
風が気持ちいい。

そうしてあっという間に高校生になった。
高校生になってからは、中学から始めたテニスを続ける傍ら、鰻屋でバイトを始めた。
鰻の不思議な動きが気になって暇を見つけては観察した。
基本的には高校時代もそれまでと変わらない生活が続いた気がする。
もちろん他の高校生同様、恋愛もしたし、友人と馬鹿騒ぎもした。
しかし、決定的な違いが高校時代にはあった。
それは、そんな生活に飽き飽きし始めたことだ。
飽きるどころではい、うんざりしていた。
それまでの鮮やかな世界が色あせ、退屈で単調な日々が灰色の記憶と共に続く。
山も川も鰻も、ぼくの気を引くことはもうなかった。

その当時、たいした理由もなく人を惨殺するという事件が巷を賑わせ、ぼくの両親などはテレビの報道を見ては涙ぐんでその悲惨さをぼくに語ったものだった。
しかし、ぼくには犯人の気持ちこそ少しは分かる気がしたが、両親の気持ちは微塵も理解出来なかった。
知りもしない人間が死んでそんなに悲しいものか。

もう共感できるできる人間すらいない。

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