宙組大劇場公演『Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』再考 | MamMa Mi〜A ♡アナウンサー 青柳万美のBlog  

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宙組大劇場公演『Shakespeare ~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~』について。
前回は脚本の細かい構成に終始してしまったので、もう少しシンプルな感想を。
これは才気ある新人劇作家シェイクスピアの成功と彼と妻の愛情を核に描いた物語です。
世に出回っているシェイクスピアのイメージと違い、そこはさすが宝塚歌劇。
キラキラしてとてもスタイリッシュ。
朝夏まなとさんの長身と伸びやかな演技によって
好青年シェイクスピアが舞台に生きています。
劇作家になりたくて詩を書いているシェイクスピアがある日出会ったのは美しく聡明なアン。
演じるのは実咲凛音さんです。
実咲さんは芯のあるたおやかな女性の役がとても似合いますね。

アンもシェイクスピアに惹かれますが、家のために資産家のパリスと結婚しなければならない身。二人の恋とそれぞれの家族の事情は波紋を呼び、シェイクスピアは村を出ていかなければならなくなります。
このあたりのエピソードはのちに『ロミオとジュリエット』として上演されシェイクスピアは人気作家として大きな成功を収めます。

シェイクスピアの才能を見抜きパトロンとなるのはジョージ・ケアリーです。
ローマの「パンとサーカス」ではありませんが演劇という娯楽を通じて自身の名誉を高め宮廷での成功を欲します。
彼とその仲間であるサウサンプトン伯及びエセックス伯。
3人は好青年であり理想を持った貴族の姿ですが、そこには危うい欲もあります。
今回は真風涼帆さん、愛月ひかるさん、桜木みなとさんが魅力たっぷりに、真面目に演じつつ笑いの要素も担っています。
特に真風さんのケアリーは妻との関係とともに『マクベス』の要素を担ったり、シェイクスピアとアン夫婦の間では『オセロー』のイアーゴの役割を担ったりします。
非常に人間味あるキャラクターに仕上げていて、脚本・演出の狙い通りのいい演技をしていると感じました。
髭の姿もとても似合ってカッコよいですよ。
(私にとって男役のかっこよさの原点が麻実さんによるバトラー船長なものでここ、大事なポイント!)
愛月さん、桜木さんもそれぞれ人気の勢いある若き貴族として説得力ある存在感がありました。

宮内大臣一座の看板俳優でグローブ座を率いたリチャード・バーベッジを演じるのは沙央くらまさん。
西洋演劇史に残る俳優を演じつつ、劇中劇では短い時間で役を表現し説得力をもたせたる必要もあるので、難しい役どころ。
リチャードが印象深くないとシェイクスピア夫婦の波風の理由もパッとしないので大切な存在です。
沙央は沙翁=シェイクスピアに由来とのことで、ピッタリの役どころとなっています。

シェイクスピアは宮廷とロンドンでの成功を願い、ケアリーたちは宮廷での成功を願い、おそらくそのパトロンである女王エリザベス1世は世界での成功を願う。
そんな構造の中、シェイクスピアの言葉は立場の違う人々にも「人間」として共通の心につよく訴えかける。
それは演劇がもつ最大の魅力でもありますね。

映画『恋におちたシェイクスピア』でジュディ・デンチが演じた女王が貫禄と人間味とのバランスでとても好きなのですが、今回の美穂圭子さんも素敵でした。
孤独と権力の間で生きる女王の存在があるからこそ、今回のクライマックスのシーンにつながるのはもちろん、シェイクスピアが描いてきた権力者に共通するエッセンスでもあります。

ああ、簡潔に書こうと思ったのに、書き始めると止まらない・・・。
久しぶりにオリジナル脚本で見応えのあるものに出会えたことがとても嬉しい、そんな1時間半でした。
チケットは当日も前売りも買いやすそうですので、まだの方は、ぜひ御一覧を。