この頃、iPadに、懐かしいドラマが流れてくる。竹脇無我を観たのは、久しぶりのことだ。

森繁久彌との共演のテレビドラマに「だいこんの花」「新だいこんの花」というシリーズがある。


 脚本は、その後に石立鉄男を主人公にホームコメディを生み出してゆく、松木ひろし。


 森繁久彌は、明治生まれの男の設定だろう。60代といったふう。元海軍の「日高」という軍艦の艦長だった男だ。敗戦から20年以上が経った今も、元部下の営む居酒屋で海軍時代を懐かしみ、パチンコにゆく日々だ。


 息子が中学生の時に、妻(加藤治子)を亡くして、お手伝いさんを雇って暮らしている。


 森繁の息子役が竹脇無我だ。当時20代であろう。その容姿と、魅力的な声が、春馬さんを思い起こさせる。設計士なのだろう。建築現場で管理する姿もある。


 この親子の理想の女性は、妻であり、母である加藤治子だ。「だいこんの花」のように、人知れず咲いて散る、美しくこころの温かな女性。


 こうした女性モデルが、当時の男性の憧れだったのかもしれない。


 この親子を中心に、現代娘の山口晶(あきら)、大原麗子、関根恵子のような女優が登場、新しい女性像が生まれてゆく。


 竹脇無我は、67歳の若さで病死した。番組にも登場する兄貴分の松山英太郎は、それ以前に、48歳の若さで病死した。


 森繁久彌は、若く才能のある俳優を慈しんで育てた。脚本家の向田邦子も、森繁に評価された脚本家だ。息子のような英太郎に先立たれ森繁は号泣したという。向田も飛行機事故で早死した。


 そして森繁が亡くなり、竹脇は深い哀しみの中で、うつ病とアルコール依存にさいなまれてゆく。


 竹脇の父親は脚光を浴びたアナウンサーであったが自殺している。竹脇にとって、この業界の中の信頼できる人たちが、こころの支えだったのだろう。


 竹脇が亡くなった時の葬儀委員長は加藤剛、田村正和も親友であった。同年代の女優で共演が多かったのは栗原小巻。


 こうして見てみると、竹脇を始め、ひとりひとりが時代を彩り個性的な俳優さんである。


 俳優や脚本家が切磋琢磨し、情愛が生まれる業界であった時代。


 春馬さんが働いた1990年代には、業界の良心は失われていたのだろう。


 今、何を守り、何を変えてゆかなければならないのかを、教えてくれる作品群。魂のこもった作品は、今日も生き続けている。