託生が泊まる部屋は、一番広いゲストルームを用意させて・・・。
でも、恐らく託生は、
「こんな広い部屋・・・」と遠慮するだろう。
そしたら、
「なら、オレの部屋で寝る?」と誘うんだ。
もう一台ベッドを入れてもいいし、キングサイズのオレのベッドは二人で寝ても余裕のある大きさだ。
・・・駄目だ。
託生と同じベッドに寝て、手を出さずにいる自信は、全くない。
同じ部屋で一晩過ごすと想像しただけでヤバいのに。
期待が膨らみ過ぎたオレは、翌朝使用人に手伝わせて、ベッドを一台部屋に入れた。
飲み物と一緒に見る映画のDVDも用意して、何度もシミュレーションをして、託生を迎え入れる準備万端で待ち合わせ場所に向かった。
「え・・・?お兄さんも、泊まるんですか?」
笑顔が引きつる・・・。
待ち合わせに30分近く早く到着したオレとは対照的に、時間ピッタリに現れた託生と尚人。
相変わらずの仲睦まじい様子に、ただでさえ笑顔を保つのに苦労しているというのに。
「一人で泊まるのは嫌だって言うものだから。急で悪いけど、僕も一緒にお邪魔させてもらってもいいかな?」
本当に、邪魔です。
「・・・・・・」
予想外の展開とショックで、頭が上手く働かない。
託生は、オレと目が合うとすぐに尚人の後ろに隠れてしまう始末。
「友人の家に泊まるなんて初めてで・・・、こんな調子なんだ」
兄の後ろで身体を縮めている託生を見ていると、強引に誘ったら逃げられそうだ、ということは早々に分かってしまった。
「無理なら、夕食だけ付き合ってもらえればいいんだけど。適当な時間に、託生を僕の部屋まで送ってくれたらいいし・・・」
「そんな、うちには客室はたくさんありますから、お兄さんも遠慮なく、どうぞ泊まってください」
「そうかい?ありがとう。でも、僕は託生と同じ部屋でいいからね」
「ああ・・・、そうですか」
だろうな。
この仲良し兄弟が、わざわざ別の部屋で寝ないよな。
「・・・ごめんね」
まだ兄の背中に隠れている託生は、顔だけちょこっと出して、気まずそうにオレを見る。
「いいよ。一人泊まるのも二人泊まるのも大差はないから」
そうだ、託生が家に来てくれるだけで良いんだ。
こぶ(尚人)付きだったとしても・・・。
少なくとも、尚人がバイトに行っている間は二人きりになれるじゃないか。
そう思い込もうとしても、膨らみ切った期待は、なかなか萎んでくれない。
・・・ああ、がっかり。