日曜日、駅で張り込み中。
オレは駅の中にあるコーヒーショップで、託生の様子を窺っている。
ベンチに座り、改札の向こうを覗いてみたり、時間を気にしている託生は、明らかに人待ちの様子。
しかも相手の到着を楽しみにしていることも明らかだ。
託生は普段は大人しく、自分からクラスメイトに話しかけるようなタイプではない。
教室の隅で本を読んでいることが多く、一人でいることを好んでいるように見える。
その託生が、あんなにもそわそわして・・・。
待つこと10分、託生の顔にぱっと笑みが広がり、改札へと駆け寄っていく。
その視線の先には、長身で整った顔の大学生風な二十歳前後の男。
託生に手を振って歩いてくる。
あいつが・・・?
まぁ、噂通りというのか、一見爽やかな好青年だな。
年の離れた友達、に見えなくもない。
そんなオレの希望を打ち砕くかのように、託生は改札から出てきた男に、抱きつかんばかりの勢いで駆け寄って、男に頭を撫でられて満面の笑みを浮かべている。
・・・恋人じゃないよな?
地元の友達だろ?
女々しくも、まだそんな風に願ってしまうオレ。
ごく自然に託生の肩にまわされた手。
託生も嫌がるでもなく、むしろ甘えるように寄り添い、可愛く男を見上げている。
・・・まさに、久しぶりに再会した恋人、か。
これで、オレの失恋は決定。
オレは祠堂に来てから、託生の困ったようなぎこちない笑い顔しか見たことないのに、あいつの前では昔と変わらない花が咲いたような笑顔を見せるなんて・・・。
次のバスで祠堂に戻ろう。
そう頭では分かっているが、感情が、行動が伴わない。
楽しそうに笑い合って歩く二人を、つかず離れずの距離で後ろからぴったりマーク。
恋人だという決定的なものは突きつけられていないが、祠堂にいる誰よりも親し気で、祠堂では見せない輝いた表情、どう見たって、あいつは託生にとって特別な相手なのに・・・、本当にオレは諦めが悪いな。
ショッピングモールの店を見て回る二人の目的は、託生の冬物のコートを選んでいるらしい。
鏡の前で2着3着とコートを羽織って、後ろ姿や全身を男がチェックしている。
託生が値札を見て、ダメだと戻している姿を見ると、どうやらコートは男から託生へのプレゼントらしい。
「はぁ・・・」
思わず漏れる深いため息。
イチャイチャしたような二人のやり取りを見ているのも辛かったし、同じ店にいると気づかれそうなので、隣の店で暇をつぶすことにした。
「・・・オレなら、このコートだな」
あの男は、グレーやブラックのコートを選んでいたが、託生にはブルー系が似合うと思う。
深く濃い紺碧の海のような青。
「黒系より、もう少し明るい色がいいな。祠堂の冬は寒いんだから、暗い色を着たらもっと寒く感じそうだよ」
オレが手にしたのと同時に、反対の裾を掴む白くて綺麗な指。
「あっ、ごめんなさい。・・・崎くん?」
同時に同じコートを掴んだことよりも、その相手がオレだったことに驚いたのだろう。
大きな瞳を見開いたまま固まってしまった。
「託生?知り合いかい?」
すぐ後ろには、あの男。
託生の両肩に手を置いて、顔を覗き込む距離が・・・、近いんだよ!
「・・・うん、祠堂の・・・、同級生」
「ああ、高校の友達なんだ?いつも託生がお世話になってます」
お世話、したくてもさせてもらってない。
それに、うちの託生が、みたいな上からな態度・・・。
沸々と湧き上がる苛立ちは上手く隠せているだろうか。
爽やかな笑顔を向けられて、オレも得意のポーカーフェイスで応戦する。
「託生くんとはクラスが一緒なんです」
急に名前で呼んだからか、コートを掴んでいた手がびくりと揺れて離れた。
相手が託生と呼び捨てにしているのに、オレが葉山なんて呼べるか。
「そうなんだ。託生は学校で上手くやってるのかな?人付き合いが苦手なのに、急に全寮制の高校に進学したから心配してるんだ」
・・・?
なんだ、この保護者みたいな感じ。
「あの・・・」
「ああ、自己紹介がまだだったね。兄の葉山尚人です」
「ええ!!」
お、お兄様!?
○●○●○●○●○●
もしも、尚人が生きていたら・・・。
という設定です(≧∇≦)