3年になって、オレのせいで託生と自由に会えなくなって、自業自得だと分かってはいるが、それでもどうにも割り切れない時がある。
「昨日街に買い物に行って、帰りのバスで、葉山先輩と一緒になったんだ」
「一緒になったって、ただ同じバスに乗ったってことだろ?」
こんな風に託生の噂がどこからともなく耳に入ってくる。
「そうだけど、まぁ、聞けって。バスが結構混んでて立ってたら、葉山先輩が隣どうぞって言ってくれたんだよ」
「優しいなぁ~。まさかお前、隣の席に座ったのか?」
隣に座っただと!?
「そう。葉山先輩って、赤池先輩とか三洲先輩とか、近寄りがたい人がいつもそばにいて、なかなか話しかけることもできないじゃん?それが、昨日は珍しく一人だったんだよ」
「それで、これ幸いと隣に座って、楽しくおしゃべりでもしたのか?」
「そうしたかったんだけど、さすがに緊張しちゃってさぁ、ありがとうございますってお礼を言っただけで、それ以上話すことはできなかった」
「だよなぁ」
ふぅ・・・、良かった。
1時間の道のり、二人で楽しく過ごしたなんて言われたら、まずこいつを一発殴り、託生に手を出すなと釘を射した後、託生を探して浮気を戒めるところだった。
「でも、葉山先輩が最初は文庫本を読んでたんだけど、そのうち眠っちゃってさぁ・・・」
な、に?
「いいな、お前、葉山先輩の寝顔見たの?」
「もちろん。しかも山道を登るところのカーブで、オレにもたれてきたんだぜ!」
なっ・・・!?
「なんだよ、それ。役得だな」
「だろ?祠堂に着くまで、オレの肩ですやすや寝てて、すげぇ可愛かった」
託生!無警戒にも程がある!!
「それに、葉山先輩って、なんか良い匂いがしてさぁ、周りにいる男どもとは全然違うよな~」
「そうそう、綺麗だし、優しそうだし。今フリーだよな?去年は崎先輩と噂があったけど、3年になってから全然交流がないみたいだし」
「それが、本命は赤池先輩だったって話だぞ」
「え?まじで!?」
「去年は崎先輩と3人でいるところはよく見ただろ?今年は二人べったりじゃん」
はぁ?
べったりだと?
そうなのか、章三!!
「ほら、赤池先輩は風紀委員長だから、付き合ってるのがばれると体裁が悪いだろ?だから、実は崎先輩を隠れ蓑にしてたんじゃないかって聞いた」
「なるほどね~。確かにお似合いだよな~」
はぁぁ?
オレが隠れ蓑だと?
託生と章三が、お似合いだと!?
「あと、崎先輩はいつも一緒にいる一年の中にお気に入りがいるとかいないとか」
「どっちだよ?」
お気に入りのわけないだろうが!
好き好んでまとわりつくことを許しているわけではない!
そんなくだらない事まで噂になってるとはな・・・。
これが託生の耳に入ったら?
信じるはずないとは思うが、気持ちの良い話ではない。
「あ、やべぇ、部活に遅れる」
「急ぐぞ!遅刻したら、グラウンド5周だ」
笑いながら走っていく下級生。
祠堂ではよくある他愛もない噂話、そんなことは百も承知だ。
しかし、それが託生のこととなると話は別だ。
本当は託生とオレが無関係になったと、ただの同級生の一人だと、周りに認識されたのだとしたら、オレの思惑通り、喜ばしいことなんだ。
これが、喜べるか?
いや、全く喜べないな。
託生が他の男と噂になるなんて、それが祠堂一のノーマル男、章三だとしても、正直こんなに不快だとは思わなかった。
・・・託生も同じ思いをしているんだろうか?