待ちに待った金曜日。
朝から落ち着かないオレ。
託生の様子はというと、当然のことながらいつもと変わらない。
あれ以来、吹っ切れたような託生は、落ち込むこともなく、夜もよく眠れているようだ。
オレは悶々として眠れないというのに・・・。
授業の内容はもちろん頭に入ってこない。
一番後ろの席に座るオレから、前方の席の託生がよく見えて、つい視線は託生にいってしまう。
黒板の数式を書き写す真剣な表情、ほっそりした首筋、半袖のシャツから覗く白い腕、涼し気な薄い背中。
今まで全身を覆っていた固い殻が取れて、本来の輝きを取り戻しつつある託生は、やっぱり綺麗だ。
・・・オレの、恋人。
ずっと焦がれていた、とても大切な人。
やっと心も身体もオレに預けてくれた。
そうだよな、託生?
だからその夜、後ろから抱きしめた託生が身体を固くした時、拒否されるとは全く考えていなかったオレの方こそ固まってしまった。
息を飲んで戸惑った表情、不安に揺れる瞳。
「・・・嫌なのか?」
「え?」
祈るような気持ちで託生の返事を待っていても、困ったように眉を下げ、オレを見ているだけ。
・・・否定しないんだな。
そんな顔をされたら、これ以上何もできないよ。
「・・・ごめん」
抱きしめていた腕を解くと、託生はほっとしたように息を吐いて身体の力を抜いた。
正直、こんな風に嫌がられるとは思ってなかった。
託生がセックスに対してトラウマがある事実は変わりないのに、託生もオレと同じ気持ちなんだと、なんで安易に考えていられたんだろう。
逃げるように自分のベッドに入る託生の姿に、また振り出しに戻ったような、絶望的な気分になった。