ーカナダ移民体験Ⅱー
そしてその数日後——
手痛い仕打ちを受けた、あの中東のシェフから再びオファーがありました。
今度は不動産を通じた正式なオファーです。
彼は「開店資金を出資してくれる新しいパートナーを見つけた」と言い、
しかもそのパートナーは大金持ちだというのです。
ずうずうしいにもほどがあるとは思いながらも、
今度こそは本気かもしれないと信じ、前回妥協して承諾した金額で再びOKを出しました。
そして双方で第一段階の署名を交わしました。
不動産業者の話によると、今回は保証金の小切手も確かに受け取ったとのことでした。
ここまでしつこくこの店に執着し、保証金も支払われ、署名まで済んだのです。
「今度こそ大丈夫だろう」と、私たちもようやく一安心しました。
あとはビル管理者による信用調査が1週間以内に行われ、
それが通れば保証金が私たちに支払われ、
さらに1週間後には店舗の引き渡しが完了するという流れです。
期間を短く設定したのは、他でもないその中東シェフでした。
購入後に店をリフォームし、夏までにオープンしたいという強行スケジュールを立てたのです。
そこで私たちも、少しでも在庫を残さないよう注意しながら仕入れを調整し、
引き渡しに向けて着々と準備を始めました。
何しろ署名から引き渡しまで2週間。やることは山ほどありました。
信用調査やリース契約の打ち合わせも兼ね、
第2段階の署名前の2日前に、買主(シェフ)とビル管理の責任者がアポイントを取ったとのこと。
しかし、その面会日が過ぎても、不動産業者からは一向に連絡がありません。
不安になった私たちは何度も連絡を試みましたが、音沙汰なし。
そして翌日、ようやくメールが届きました。
件名は「残念なお知らせです」。
まさか——信用調査に落ちたのだろうか?
そう思いながら本文を読み進めると、そこには信じがたい内容が書かれていました。
なんと、再びあのシェフがビル管理責任者とのアポイントを拒否し、
オファー自体を取り下げたというのです。
理由は、「新しい出資者であるパートナーとお金のことで決裂したから」とのこと。
つまり、またしてもこの話は流れたのでした。
しかも、今回はビル管理責任者まで巻き込んだ大騒動です。
私たちは在庫整理から引き渡し準備まで、すべてを急ピッチで進め、
同時に気持ちの整理までしていた矢先の出来事・・・
この報告を聞いた瞬間、ショックのあまり涙がこぼれました。
前回に続き、今回も「前日ドタキャン」。
まるでゲームでもしているかのような⋯
理由はいくらでもつけられるでしょうが、全てを理解した上で署名し、正式にオファーをしているのです。
私は、彼が確信犯だったのではないかと疑っています。
