意外に知られていないのがイタリア人のうつ病患者の多さです。

陽気なイタリア人というイメージの裏にかき消されてしまっているのかもしれません。

 

私が住んだ北イタリア地方は冬が長く、曇りの天候が続き、霧も多く発生します。

これらの要素も季節性鬱病を併発するのに関係しているかもしれません。

 


夫の古くからの友人のひとりに、マリア(仮名)という、私達より10歳くらい年上の女性がいました。

彼女のご主人は長年鬱病を患っていました。
鬱症状はかなり重く、それまでにも数回自殺未遂を起こしています。

その為小学生2人の子供を抱えた彼女は、ひとりで気丈に家計を支えながら、家事や育児もこなしていました。


そんな折マリアの旦那さんがとうとう失踪してしまいました。
警察に捜索願いを出したり、新聞に載せたりと、あらゆる手段を使って探したのですが、全く手がかりがありません。


そしてその数ヵ月後、体調不良を感じたマリアは病院へ検査に行った所、脳腫瘍があると言われました。
しかも手遅れで、医者から余命半年と宣告されたのでした。



そして追い討ちをかけるように、失踪後1年以上経った頃、旦那さんは山の奥で遺体となって発見されました。

自ら命を絶っていたのです。


マリアも子供達もかなりの衝撃を受けました。

葬儀でみた彼女達の憔悴しきった姿が今でも目に焼きついています。
 

 

でもマリアの一番の心配事は、子供達の行く末でした。


ある日、マリアは私達家族を夕食に招待してくれました。
あんなに健康的だった彼女は、面影も無いほどやせ衰え、抗がん剤治療のため髪も抜け落ち、頭にバンダナを巻いていました。


それでも明るく振舞い、夕食をご馳走してくれ、
その後その場に一緒にいた彼女の男友達サルボ(仮名)を、こう紹介してくれたのです。

「私達結婚するの。」



当時余命2ヶ月という短い時間しかなかったマリアは、友人サルボと結婚する事により、彼女の子供達を彼に託したかったのだと思います。
恋人でもなく、ただ長年付き合いのある親しい友人の彼に。



いくら独身とはいえ、子供のために結婚するというこの重い決断を、

サルボは短期間で承諾しました。


サルボと形式上だけの結婚式を挙げたマリアは、その1ヵ月後空へと旅立っていきました。



そしてその3ヵ月後、スーパーマーケットで、偶然サルボとその縁組をした子供達2人に遭遇したのです。


子供達は2人共両側からサルボにくっつき、腕を思いっきりギュッとからませて歩いていました。

それはまるで 、もう決してサルボから手を離すまい としているかのようでした。

 

繋がりはないけれど、こんなに深い愛の形もあるのですね...