●はじめに●
「ターンオーバーだから活性低くて釣れないね、」
そんな一言からターンオーバーって本当に起きてるのかな?と興味を持ち、知り合いから「計測器の校正メンテしてくれるなら」を条件に借りることが出来たので釣果が良く心に余裕のあるときだけ計測し始めました。ターンオーバーに関して簡単にザックリと書くと
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○春から夏○
気温上がり結氷していた氷が解ける。
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気温がどんどん上がり湖に水温差の躍層が複数出来る
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各躍層だけでの水循環となる
↓
下層水は微生物が酸素を食いつくし貧酸素になり水質も悪化する。
○秋○
表層水が冷えて重くなり深い所へ沈んでいく。
↓
下層にある水質の悪い水が表層へ上がり循環、湖の全体がほぼ一定の水質となる。
○秋から冬○
表層水がさらに冷え循環する。
↓
表層水が0度になり凍る
↓
淡水は水温4度で比重最大となることから下層躍層は4度となる可能性が高い。
↓
低水温や、氷下による光遮断により植物・動物プランクトンの発生、酸素の供給・消費が下がる。
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これが淡水のダム湖や湖で起きる水の循環で、秋の循環(ターンオーバー)時期に著しく魚の活性が落ち、さらに循環進み水質が安定するとまた魚の活性がもどる。そこで、何が知りたかったかというと、
・ターンオーバーで魚の活性が落ちる要因は何なのか、
・ターンオーバーが発生するタイミングを知ることはできないのか、
この2です。
それでは各測定データの結果から。
●水深と水温の関係●
10月の結果では水深10m付近まで水温が同じになっており、10m付近までの躍層はすでに破壊されていることがわかる。
※冷水性魚類(サケ・マス)では5~15℃程度が生息範囲とされている。
●水深と溶存酸素(Do)の関係●
9月の結果にくらべて10月の結果は表層の溶存酸素はあまり変わらないものの水深10m付近のDo値が著しく上昇している。これは表面で冷やされた水が落ち込み下層の躍層まで落ち込んで攪拌し、Do値が上がった結果であると推察され、水温測定結果からも10月の測定結果は水深10mまでの水温は表層とほぼ同じ値となっていることから、風波による攪拌や、寒気による大量放熱で表層までの循環が発生した可能性が高い。
11月に入ってから表層付近の溶存酸素が著しく下がっており、水深9m付近までほぼ同じ値となっている。水温も同様の結果となっており、ターンオーバーによる撹拌が表層まで達したことを示唆している。
※水産用水基準ではサケ・マス・アユを対象とする場合は7mg/L以上維持しなくてはならない。
●水深と水素イオン濃度(pH)の関係●
9月の結果に着目すると、表層ではほぼ中性(7)であり、10m深部では6以下の酸性を示している。1か月後の表層pHは、9月測定結果から10月の測定値がいっきに下がり(酸性化)しており、10月で若干上がっている。低層に関しては、徐々pH値が中性値(7)に近づく結果となっているが、表層の水温結果と著しく異なる傾向を見せている。表層水のpH値に関しては雨の影響を受けていると予想される。
雨水の特徴として、大気中の二酸化炭素を吸収することが知られており、その影響により雨水のpH値は6前後のやや酸性を示す。雨の影響を確認するために、釣行日の24時間雨量と湖表層のpHをプロットした図を次に示す。
※水産用水基準では淡水域のpHは6.7~7.5とされている。
●雨とpHの関係●
釣行当日に雨量があるのは、10月26日であり、pH値が著しく下がった釣行日と一致する。また10月26日の前日の24時間雨量は50mmを上回る値となっておりこの影響も大きかったと推察できる。
●まとめ●
運の要素がかなりありますが、筆者の釣果と表層水温の関係を示す。
水温、溶存酸素、pHの測定結果から、ターンオーバーは10月26日前後から発生し始めていると予想され、全釣果(サクラ、アメ、イトウ)の釣果も減っている結果となっている。この結果からも計測値で得られたターンオーバー発生の推測時期と合致しており、ターンオーバーにより、魚の活性に影響を及ぼした結果であることが推察できる。 次に、ターンオーバー発生により水質の何の条件に魚の活性が影響しているのか
〇Do(溶存酸素)の影響〇
水産用水基準では河川・湖沼では6mg/L以上。ただしサケ・マス・アユを対象とする場合は7mg/L以上とされています。Do計測結果からは水深5m以上であれば9月以降7g/L以上となっており、朱鞠内湖のターンオーバーにおいて貧酸素による低活性化の影響は少ないのでないかと予想される。
〇pH(水素イオン濃度)の影響〇
水産用水基準ではpH6.7~7.5とされています。pH計測結果から9月28日以降のpH値は全て基準以下となっており、釣果の下がった10月26日以降と重なる結果となっています。釣果の良かった10月5日から10月19日までの測定値がないことから、一概には言えないが、朱鞠内湖のターンオーバーによる
魚の低活性化はpH値に影響している可能性が高いと推察される。
〇その他の影響〇
水産用水基準によると、魚の育成に関して水温や、Do、pHの他、注意すべき項目が色々あります。水産生物の育成に必要な項目は、電気伝導率、硝酸態窒素、ケイ酸、リン酸イオン、クロロフィルa、透明度である。高濃度では水生生物の生育障害となる項目は、科学的酸素要求量、生物学的酸素要求量、浮遊物質、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、総鉄量、全窒素、全リン、全有機炭素、溶存有機炭素である。上記の項目の中、朱鞠内湖のターンオーバー中に魚の活性が落ちている要因がpHの他にもあったと思われます。
●結論、攻略、課題●
〇結論〇
簡潔に!朱鞠内湖のターンオーバーはpHの影響により魚が低活性化している可能性が高い。また朱鞠内湖のターンオーバーの発生は表層水温が10℃を下回ると発生し始める可能性が高く、表層水温が更に○○℃まで下ると活性が回復する。○○は今後課題です!
〇攻略〇
ターンオーバーは水の循環である。その循環により一時的に水質が悪化し魚の活性が落ちるということを考えると、循環の影響を受けにくい場所を攻めるというのが単純な考えとなる。それはいったいどこなのか、私の単純な頭で想像すると、ブッシュの中?水深の浅いシャロー?風上?、11月9日のデータだけを信用すると深場からpHが回復しているので深場攻め?あとは釣り人の感覚と経験と想像力で攻略するしかありません。
〇今後の課題〇
2013年9月から朱鞠内湖のレギュレーションが変わり12月1日までだった遊漁期間が12月10日まで延長されました。積雪の影響もあり昨年も11月上旬で以降朱鞠内湖に足を運ばないのですが、ターンオーバーから回復した湖での水質と釣果を確認してみたいですね。
次に、pHについて調べていたら、降雨は基本酸性水というキーワードが出てきて驚きました。朱鞠内湖のターンオーバー時の魚の低活性の要因がpHと仮定したとき、ターンオーバーが発生していない時期でも降雨により表層水の酸性化が一時的な魚の低活性化の可能性があるかもしれないということになります。たしかに振り返ってみると雨の日の釣果あんまり良くない気もしますが私だけかしら?降雨時のpH値や釣果など今後調べてみたいですが・・・辛いな~今後計測器を借りれるか分かりせんが、pH、Doの他に、計測できる基準項目と簡単に計れる項目(水温等)の関係性を調べていけたら良いなと思っております。
●最後に●
生物、水産、水質、全てにおいて素人の私がこのデータをまとめるにあたり信頼できるデータや基準を対象として調べていくと、研究施設の資料や、論文に行き着きます。そこには自分が調べたいと思う資料も当然ありますが、それ以外にも歴史、環境、生体等々と真剣に向き合っている研究者のすばらしい論文が沢山ありました。当然私の知らないことばかりではありますが、何かを決める時には必ず原因や現象があり、それを沢山の人達が調査し、検証して発表されているんだと再確認しました。