GWという事と、症状にも一定の落ち着きがあり、一時退院が認められた。

2週間のACTH治療の効果は、目に見えるレベルでとなると、、、残念ながら無かった。脳波は変らずヒプスアリスミア……執拗で刺々しく、醜悪。なかなか手強い。

点頭てんかん発作の対処として、ACTH治療は期待度が高い。脳障害持ちだけれど、ひょっとしたら……等と思ったりしていた。

娘は様々な縁もあって、専門性の高い医療機関で受診できた。生後2か月に発症してから、その3ヶ月後に治療を開始したタイミングも、手遅れという程もたついた訳ではない。僕らはベストを尽くした。と思う。

けれど、彼女の場合、アイカルディ症候群の合併症状である、脳室の構造異常や異所性脳灰白質から「てんかん波」が出ているのだと推測されている。

……ACTHでは、やはり届かなかった。

今後、投薬治療を中心に、少しでも、てんかん症状を抑えることを目標とするのだけれど、一日でも早く、何かしらの効果を拾い集めて、生活の質を上げる為の成長を獲得していきたい。

次イーケプラという比較的新しい薬を試してみるらしい。期待する。何度でも。


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定期的にやって来る点頭てんかんを見守りつつ、退院の手続をする。思えば、彼女は大阪に引っ越と同時に入院となったのだから、一度も引っ越し先で過ごしていない。

新しい環境を気に入ってくれると良いのだけど。

そんな娘を連れてのGWで僕らがやりたかった事は、とてもささやかな事ばかり。

5人家族(+ワンも)になった為、手狭になった食卓を新調する事。チョット目をひく美少女になった長男の幼なじみに久しぶりに会う事。映画を一つ観る事。お弁当にビールとワインも詰め込んで、近所の淀川の畔でピクニックする事。

なかなか楽しかった。

それから、もう一つ、やりたかったのは、娘の髪をカットする事。

産まれて半年の所で、彼女の髪は目にかかり、クシャクシャの襟足の毛をならしてみると、その長さは肩まで届く。

産まれた時からやたらと髪が多かったし、更によく伸びてきている。

そんな訳で、まだバブーの癖に、ぱっと見は幼児のように見えたりする。

「この子の毛が多いのは、きっと頭を守る為なんじゃないのかな?」妻が言う。乳幼児にしては長くて多い髪を撫でながら、僕らは自己防衛本能みたいなモノを感じていた。


退院して最初のお風呂タイムは父の特権で僕が貰い受け、少しグズる娘を抱えてる隙に、妻が彼女の前髪に小さなハサミを入れる。

最初に切ったのは前髪。コレは記念に取っておく。ソレから眉の上に切りそろえる。絡まった襟足の毛も少し整える。

僅か数分で終わった夫婦の共同作業なんだけど、効果は絶大だった。なかなか良いぞ♪

切り揃えた髪を洗い流す。まだ薬の副作用もあり、てんかんも続く彼女は、時々、気だるそうで、およそ赤ちゃんらしくない大人びた目をしている。

それでも濡れた髪を綺麗に拭い、乾かしてやると、前髪をパッツンとして可愛らしい。

ん!?、何処かでみた顔だなと思っていたら、「なんか、私に似てるかも」と妻が言う。

なる程、そういえば、まだ出会って間もない大学時代の妻の顔が、少し気だるそうに僕らを眺めていた。

思わぬ再会に際して、娘を持つ父の喜びというモノが、今、少しだけわかった気がする。