酉島伝法「るん(笑)」


 SF大賞を受賞しまくっている作家さんの作品です。「君のクイズ」を読了後、表紙が気になり積みから崩しました。酉島伝法作品は、何作か手を付けましたが難解過ぎて途中で挫折を繰り返しています。

 本作は帯に「はじめて人間を主人公にした作品集」とあったのでチャレンジしました。難解で、途轍もなく面白く読めました。SF好きや奇書好きにおすすめの本です。


 世界から、科学が消えて「スピリチュアル」がその代わりをしている世界の話です。インチキ新興宗教が世界の理(ことわり)になった世の中を想像してください。病気を治すのは医療でなくて、祈りを込めた「奇跡の水」です。当然治ることなく、不具合が生じますが、政府が平熱を38°cにすることで解決します。でも、やはり現実は誤魔化せず歪みが出てきました。それに気付いた人々は世界から拒絶されて、やがて世界の秘密に触れ・・・。


 まるで世界全体が精神病院な雰囲気を作っています。更に、酉島伝法作品ならではの「漢字遣い」が奇書レベルを上げます。「病だれ」がポイントで、

病気→丙気

座る→痤る

等、異常が平常に、平常が異常に書き換えられます。読み難く混乱しますが、独特の「酔い」に繋がり気持ち良く読めました。漢字からインスピレーションを受ける人には特におすすめの本です。


 読んでいて感じたのは、夢野久作 や津原泰水 、初期の牧野修 、マンガだとイダタツヒコ の様な異界に通常世界を放り込んだ作品だということです。どの作品も最初は苦戦しますが魅力たっぷりの奇書だと思います。ジャンルにすると、未来・ディストピアSFになるのかなぁ?おすすめの作品です。が、おすすめしない本でもあります。