ふるさと万華鏡 第49回
「旧石器時代の終末期を語る石器」
三内丸山遺跡センターで開催された特別展「縄文時代のはじまり-最古の土器登場-」(4月19日~6月29日)の旧石器時代の環境や人々の生活を紹介するコーナーに、外ヶ浜町大平山元Ⅲ遺跡とつがる市丸山遺跡の出土品が展示されました。この2遺跡は、当館が学術調査を行った遺跡であり、青森県の旧石器時代終末期の細石刃文化期を語る上で欠くことができない資料です。
大平山元Ⅲ遺跡出土品で注目されるのは、昭和53(1978)年の調査で採集された黒曜石製の細石刃核3点のうちの1点です。細石刃核とは細石刃を取るための石の塊のことです。細石刃とは旧石器時代終末期に現れる、長さ20~30㎜、幅6~7mm、厚さ1~2mmのカミソリの刃のように薄く鋭い、切れる剥片です。これらを複数、木や骨製の軸に装着し、槍などの刺突具として使っていたと考えられています。本遺跡出土の細石刃核は関東・中部地方に特徴的な円錐形をしていること、当時本県では旧石器時代終末期の遺跡の本格的な調査が行われていなかったことから注目されました。
翌年の昭和54(1979)年に行われた発掘調査では、後世の土地の削平により細石刃を伴う地層は確認できませんでしたが、その下位層から後期旧石器時代後半の石器群(ナイフ形石器・削器・彫器など)が確認されたことで、約20,000年前から16,000年前の間の石器の変遷を捉えることができました。
一方、丸山遺跡の出土品は、関東・中部地方の特徴を持つ珪質頁岩製細石刃核と掻器や削器、遺跡で石器製作が行われていたことを示す削片や剥片を展示しています。丸山遺跡では、昭和56(1981)年に黒曜石製の円錐形細石刃核、翌年には珪質頁岩で作られた舟底形を特徴とする北方系細石刃核が採集されています。また、平成10(1998)年の発掘調査では黒曜石の細石刃1点と珪質頁岩製の北方系細石刃核2点、削器や石核・剥片が出土しました。
この二つ遺跡から、当地域では、旧石器時代終末期には北海道を含む北方系と関東以南からの石器製作技術が伝わり、これらを取り入れ、地元の石材である珪質頁岩で製作していたことがうかがえます。
(青森県立郷土館学芸主幹 杉野森淳子)
*文章は、『東奥日報』木曜版掲載の当館連載記事(2025年5月8日)を基にしています。