前回から人魚の話をしている。

 

 これは、青森県立郷土館の歴史分野が、写真資料整理中に発見した奇妙な絵はがきである。

 

 なお、我が国の絵はがきは、20世紀初頭から、戦地の様子や世の中のニュースなどを解説付きの写真で紹介するタイプが流行して一般社会へ普及した。

 しかしこの絵はがきは、不気味な人魚らしきものの前後を撮影したモノクロの写真である。

 

 その巨大な頭部は禿げ上がり、顔面はしわだらけの男性のようにも見える。

 やせ細った上半身から人間のような細い両腕が生えており、まるで顔面を覆いながら絶叫しているような姿勢だ。

首の後ろにも何かを生やしており、下半身は細長く折れ曲がった魚体のようで尾ひれがある。

この裏面には手書きで説明が書かれている。それによると

 

「明治元年(1968)七月、玄界灘付近にてアイヌが発見、宝物は身長約八尺五寸(約258㎝)にて八貫(約30キロ)の体重なり、右は日本橋基志人が所有せり。46・12・神□□(判読不明)」

 

と記されている。荒唐無稽な伝承であろう。

 

 しかし、この人魚の外形をよくよく見てみると、18世紀に高知沖で捕獲されたという言い伝えを持つ、岡山県の延珠院所蔵の「人魚のミイラ」に似ている。そのミイラは、倉敷芸術科学大学がCTスキャン等の化学調査で解析した結果、人工物であると判断されたものである(2023年2月7日東奥日報紙記事より)。同大学によると同種のミイラは十数体、日本各地で現存しているというから、この写真もそのなかの一体を撮影したものであろうか。

 

 他にも青森県内では、八戸市博物館が、南部家旧蔵の双頭の人魚のミイラを所蔵している。

 

 このように博物館資料のなかには、前近代の人々の願いが生み出した不可思議な存在も少なくない。現在休館中の当館であるが、再開後には、このような青森県内で記録された異形の存在達を一堂に会する特別展を企画してみたい。(小山隆秀)