各博物館には様々な資料が所蔵されており、分析すると意外な姿が判明する。

 

 先日、青森県立郷土館でも「象の牙の化石だ」と考えられていた資料が、実は県内初記録となる約300万年前のカイギュウ化石であることが判明した。

この子孫にあたるのがジュゴンの仲間であり、古来から「人魚だ」と見間違われてきた生物でもある。

 

 実は当館には、その「人魚」の資料がある。

 

 この江戸時代の絵画資料をご覧いただきたい。

 

(青森県立郷土館蔵「男人魚の図」)

 

 痩せて禿げ上がった男が舌を出している姿が描かれているが、その胸元から下方は人間ではなく魚体であり、背びれ、胸びれ、腹びれ、尾びれまである。

 うつ伏せになって長い爪を生やした両手で体を支えている。

 「男人魚 長サ一尺二寸(約37㎝)」という説明が付けられている。アニメや西洋の童話に出てくる美しいマーメイドとは真逆の姿だ。

 

 これは弘前藩の兵学者横山家所蔵の絵画である。

 包紙には「この魚を見る者は長寿になるといい、弘前藩の若殿が母親に見せよと筆写したもの」と記されている。

 幕末の津軽の国学者平尾魯仙が「異物図絵」に掲載した人魚の絵と酷似する。当時流行した存在であろうか。

 

 同時代にアメリカから日本へ来航したペリー一行は「ペルリ提督日本遠征記」のなかで、幕末当時の日本の漁師達のなかには「猿と魚を接合して人魚の標本を作って驚かせる者がいたり、人魚を描いた絵を所持すると疫病を防げると販売している者がいて、出島のオランダ商館から海外へ輸出されていた」と記録している。

 

 この他にも青森県域では、「人魚」らしきものが出現したとする記録がある。

 例えば宝暦7年(1757)3月下旬、津軽の外ヶ浜で漁師の網に「異形の魚」がかかった。それは面長の人面で、長い髪のなかから二つの角が生え、首から袈裟のようなものを懸け、全身は鱗に包まれた魚体で背びれや腹びれ尾びれ等を持つ人魚のような姿だったとされ、それを弘前藩士が「三橋日記」でスケッチしている。

 

 一昨年、その「異形の魚」が出現した土地に招かれて近世から近現代にかけての妖怪文化の講座を開催し、その絵を紹介した。

 すると地元で育った高齢の女性が「ワ(我)はこんな化け物は見たことがない。ジサマもそんな話をしたことがない」と発言された。私は自分がペテン師のように見られているのではないかと焦り「私が作った話ではありません、270年前の噂話ですから…」と言い訳した記憶がある。

(小山隆秀)