長く続いた夏の酷暑が恋しい季節になってしまいました。

 みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 

 青森市出身の彫刻家・鈴木正治(1919~2008)は、いくつかのテーマを様々な技法で制作し続けました。今回は「春夏秋冬」を表した作品を紹介します。一つの作品の中に青森県の四季の風物詩が組み込まれています。

 

「春夏秋冬」 鈴木正治作 1979年 木彫レリーフ

縦162.5×横85 2枚  青森県立郷土館蔵

 

 この作品は濃い色で塗られた板を彫って作られたレリーフです。2枚で構成されており、

全体で春夏秋冬を表しています。それぞれにイタリア語で春・夏・秋・を表す「primavera」「estate」「autunno」「inverno」の文字が刻されています。

 

 鈴木は、岩手県岩手町で開かれた石彫シンポジウムで知り合ったカナダ出身でイタリア在住だった彫刻家・ダニエル・クブラールに招待されて、1979年にイタリアに渡り大理石の彫刻を制作しています。それでイタリア語に触れていたのでしょう。

 

 それぞれの季節を拡大してみてみましょう。

 

 春「primavera」に表現されているのは、八戸地方に春を呼ぶ豊年祈願の郷土芸能「えんぶり」です。

 

 

 画面左の長い烏帽子をかぶった人物が、コマ送りのように頭を地面に近づくほど傾けて踊る舞を表しているようです。烏帽子の中に描かれている模様はそれぞれ違っていて、龍の顔や波の上にはねる鯛の姿が刻されています。横顔は目が大きくデフォルメされて表現されています。

 

 夏「estate」に表現されているのは青森市の夏祭り「ねぶた」です。

 

 

 画面左側の暗い背景に浮かび上がるのは、「浦島太郎ねぶた」です。亀の背に乗った浦島太郎が大きな口を開けて笑っている様子がデフォルメされて表現されているようです。

 下の方にある円形がねぶたの台車に付いている車輪を表しています。

 竜宮城に向かっているのでしょうか。右上の円錐状のものはねぶたの太鼓です。

 鈴木が描くねぶたには、桃太郎、浦島太郎、金太郎の三太郎がよく登場します。

 

 秋「autunno」に表現されているのは、実りと収穫です。

 

 

 画面の上にはデフォルメされたりんご樹があり。その下にりんごの実があります。

 りんご樹の左側を取り囲むようにたくさんの魚たちがいます。

 画面下には海の波が表されています。

 画面右側にあるのは実ったお米の山です。

 三方を海に囲まれ、海の幸が豊富な青森県。秋には米が実り、りんごの収穫期を迎えます。

 画面全体で、豊かな自然に恵まれた青森県の実りの秋を表しています。

 

 冬「inverno」に表現されているのは、角巻を来た2人の人物と雪です。

 

 

 角巻は金木地区の地吹雪体験ツアーでおなじみの、かつて女性が着ていた防寒着です。

 角巻の中に描かれる模様は、津軽地方に伝わる刺し子の技法のひとつである「こぎん刺し」です。

 足にはわら靴をはいています。二人の人物は、向かい合って頬をほんのり赤らめています。

 人物を取り囲むように描かれている円と三日月を組み合わせた形のモチーフは、雪を表しています。

 

 鈴木正治が制作する春夏秋冬をテーマにした作品は、青森の一連の四季を盛り込んでいて、絵巻物のようでもあり、メルヘンチックで、他の作品と同様に、見ているとやはりほっこりと温かい気持ちにさせてくれる作風になっています。(ナカムラ)