「恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」
正月休みに、大阪府和泉市の信太森葛葉稲荷神社を訪れた。
JR北信太駅から徒歩数分、住宅街の中にひっそりと佇む神社。

鳥居をくぐると、サヤサヤ、サヤサヤと楠の葉が鳴り響き、民話や昔話の異世界に入り込んだかのようだ。

長い年月を感じさせる小さな鎮守の森は、陰陽師で知られる安倍晴明にゆかりがある。
この信太の森で狐狩りにあった白狐を助けた安倍保名の前に、
助けられた白狐の葛の葉が人間に姿を変えて現れ、保名と夫婦になった。
二人の間に生まれたのが安倍晴明で、葛の葉伝説として伝わっている。

「恋しくば… 」は、葛の葉の正体が白狐とばれて、夫と子に別れを告げて信太の森へ帰る時の別れの歌。
葛の葉伝説は歌舞伎や文楽、三味線音楽の題材にもなっている。
私が稽古している三味線の「狐会」もその一つで、
私がこの曲を知ったのは、学生時代に読んだ谷崎潤一郎の小説「吉野葛」からだ。
主人公の記憶に残る、若くして亡くなった母の俤は、
この「狐会」をお琴で弾いていた上品な色白の女性の姿で、
葛の葉の歌詞から、主人公の母恋いの物語へと繋がっていく重要な場面だ。
私には思春期真っただ中の反抗期の息子がいる。
日々、暴言を吐かれたり、そっけない態度をとられたり、神経をすり減らす毎日だが、
いつか「吉野葛」の主人公が抱く母君の俤のように、
息子の記憶にも三味線を弾く素敵な母の記憶を残したいなんて思ったりして、
今、再びこの曲を深めたくなったのだ。
境内を歩いていると、あちこちにここを訪れた人たちの強い念を感じた。

絵馬の多くに書かれていたのは、
「○〇さんと一緒になれますように」
「○〇さんと私は必ず結婚して添い遂げます」
といった怖いくらいリアルな恋の成就への願いだ。
一人で訪れていた若い女性は、両手を広げてご神木の「夫婦楠」に抱きつき、長い間何かを念じていた…
安倍晴明の神通力を信じて叶えたい強い想い。
情念漂う森でもあった。
私も夫婦楠を抱きしめて、「今、側にいる方と……」
などとは、
うらみ(恨み)葛の葉…
どこかから恨みの念が返ってきそうなので、そんなことは願わず、
ただ、息子の健康と幸せを祈ったのだった。
子を想う情も葛の葉と同じ。
子別れの時まであまり時はない。
大人になった息子に、素敵な母の俤を残せるような女性でありたい。


左は通常の御朱印で、右が昔の古い印を復刻した御朱印
最近流行りのキンキラ御朱印は作らないとのこと。
素朴だけど由緒ありそうな感じが気に入っています。