*注意書き*

この一件解釈風の記事は、完結後の原作を後から読んだ上での私の妄想解釈の感想文であり、現実に原作者の人がこのような意図をもって作品を描いていたと決めつけるものではありません。実際に週刊連載でそこまで考えて描いていたと考えるのはナンセンスということは重々理解しております。あくまでもこの妄想遊び心に付き合える方だけ、一緒に楽しんで頂ければと思います。また解釈は固定されているものではなく、今後変わることもあります。

 

 

 

最近2次の方で「ジェローデルが全然出てきませんが嫌いなんですか?」ということをよく言われるのですが、みんなの好きなジェローデルと、私の認識しているジェローデルはちょっと違うような気もしているので、少し自分で整理してみようと思いました。

 

まず、私の中のジェローデル像は、原作の本編のみから成り立っています。エピソード編やアニメ、実写版のジェローデルはいっさい混ざっていません。なので、年下設定とか、親の愛に飢えているとか、そういう設定にも影響されていません。手持ちの設定では、美形で大貴族で、長男ではなくて、近衛隊の元部下、ということだけ。

 

私から見るジェローデルという人物の最大かつ唯一の特徴は、やはり「貴族的」であるということですかね。

平民のアンドレに対するキャラとして出された「大貴族の男」。

貴族であることに誇りを持ち、貴族的な生き方を何よりも大切にしている。教養もあり、おそらく文武両道で、精神性も高い。

 

で、彼の思う「貴族的」な態度や行動とはどういうものかというと、やっぱりそれは「常に冷静であり、優雅であること」なのではないでしょうか。

これが彼を形作るものであり、感情にふりまわされるなんて貴族としてみっともないという思いがあるんだと思う。本当は平民なんかにオスカルさま取られて超悔しいんだけど、そこはおくびにも出さない。

ぐっとプライドでこらえて、額に脂汗にじませながらも痩せ我慢して美しく去っていくんだよね。廃れゆく貴族の美学ですよ。正しい正しくないじゃない、美しいか美しくないかなんだ!

一応この去り際の美学は、同じ貴族であるオスカルさまにはちゃんと響くのが救いといえば救いです。(そして一部の教養ある読者にも)

 

で、彼はもちろん悔しい〜〜って思ってはいるんだけれど、自分を蹴落としたにっくきライバルのアンドレに対して決して嫌がらせするようなことはしないんです。

育ちがいいってこともあるけど、そういう人間として恥ずかしいこと、醜い事は絶対しない。彼はそういう自分の地位や権力を使って無茶振りをするような恥知らずではないわけです。

生まれも尊ければ心も尊くありたいと思っている人です。この人間性の高さは、潔癖な時代の少女読者から高評価は得られたとは思います。まあベルばらの登場人物はみな気高いからのう。

 

まあ、彼がジャルジェ将軍に告発したりとかしてアンドレが処分されちゃえば、未来永劫オスカルさまに許されないっていうのもあるけれどもね。

それと我らがオスカルさまの求婚者なら、これぐらい高潔な人であってほしいというオスカルさまファンの厳しい評価基準もあったはずだし、そこは作者先生の志の高さが表れている部分なのかもしれない。

 

この「ザ・貴族」なジェローデルに対して、同じ大貴族のオスカルさま、実は全然貴族らしくない。けっこう感情に振り回されるタイプなんだよね。

これって軍人としてはもちろん、当時の貴族としては致命的な性質で、現代でも会社とかでこれやると「だから女は」って言われちゃうやつなんだけど、ベルサイユでは女だって宮廷では本性見せちゃいけなかった。オスカルさまはこういう特殊な立場じゃなかったらけっこうやばかったんじゃないかと思うぐらいセルフコントロール力が弱い💦

 

まあ彼女は情に熱く、不正も黙って見逃せないという、正義の熱血型主人公だから画面で感情をほとばしらせるのは当然なのですが、貴族としては失格です。精神が不安定な人だと見られて出世とかも難しいでしょう。現在のヨーロッパとかでもこれはやばい。

 

実際、精神状態は落ち着いている方とはいえないですね。フェルゼンはオスカルさまのこと氷の華とか言ってたけど、読者の前ではすぐイライラするし、ものに当たるし、割とヒステ.......感情爆発タイプだと思われます。まあ「少女」マンガの主人公だから子供っぽいのはしょうがないとしても、キャラクターとしてもやっぱりこの方、内面が成熟していないのよ。まあ、アントワネットの実年齢につきあっているから、自己成長がすごく遅いというのはあるにせよ。

 

彼女が「本来の自分でないもの」を「古い力」に強制されていて、自己成長と共に「古きくびき」に囚われている自分を発見し、そこを打破して本来の自分を取り戻し、自分の力で新しい世界を切り開いていく、というのがこの作品のオスカルさまのテーマなわけだから、長い長い自己葛藤は必要な要素であり、その間、いろいろ悩んだり迷ったり、少し精神の不安定さというかメンヘラ的な部分を長く抱えるのは必然だとは思う。

 

そういう精神が落ち着かず、激情型タイプのオスカルさまが、同じく激情型のフェルゼンに惹かれたのは当然だったかもしれないと思うわけです。オスカルさまにとってはそういう人がもっとも分かりやすかったんだよ。自分と同じだから。静かな愛とか、身を引く愛とか、初期のオスカルさまにはよく分からないし、素敵とも思えなかったんじゃないかな。

 

フェルゼンも主役だから分かりやすく激情型であって、泣くわ踊るわ毎回大騒ぎで、そういう情熱的な恋愛に少女の心のオスカルさまは引き込まれたんでしょうね。まあ相手もイケメンで愛に苦しむ姿は絵になるしね。

まあいうなれば、無垢な心の状態でものっすごい宝塚の舞台とか、ものっすごいジャニーズのコンサートとかに連れて行かれて、最前列で劇的なショーを見せられたようなものですわ。(おのおのご自分の好きな推しジャンルでご想像下さい)

ドラマチックな恋愛は、恋愛初心者に分かりやすい形の恋愛でもあるしね。

 

だからアンドレのあの求愛(ブラびりね)はオスカルさま的にはばっちり理解できたんでしょう。っていうか、あの方法でしかオスカルさまには分かってもらえなかったんじゃないかな〜。

だってすでに面と向かって好きだって言ってたし、キスまでしてたのに(星空キス)、ぜーーんぜんオスカルさまにリアルごととして響いてなかったもんね。

鈍感にもほどがあるよね。これ以上何をしろっつーねん、みたいな。

 

まあ、恋愛というのはそれぐらい激しく求めて初めて始まる、みたいな感覚があったのかもしれませんね、オスカルさまは。

 

でもおもしろいことに、ドレス姿になってフェルゼンが食いついてきたら、一目散に逃げるの、あれなんでなの? サベルヌの後にもなんか後ろから肩とか手とか握って、あれ大人になってから読んだら、おいおいおいおいおい、これはせんせーはどういうつもりで描いてらっしゃったんだ!?みたいになってしまうわけですが、それもオスカルさまは全スルーなんですね。ドレス着なくても全然いけたじゃん、って感じなんですけどね。(まああの後妹に踏み込まれただろうが)

 

まあともかく、オスカルさまは誰に対しても準備が出来てないわけです。

出来てはないんだけど、準備はさせてはほしいわけ。

 

オスカルさまがなんでフェルゼンからの肉体的アプローチをカウントしないのかよくわからないけど(言葉にしなかったから分からなかったのかも)、アンドレに「ずっと性的に惹かれてた、ムラムラしてました」って言われた言葉は彼女にとってものすごく効果的だったのね。

失恋して自信がなくなっていたところに、性的価値のある女だと保証してくたんですわ。つまりオスカルさまを女にしてくれたんですよね。これされたら、もう他には目が向かないよね~。

 

まあよく知らん人に言われても気持ち悪いだけだけど、アンドレはこういうこと言っても許せるほどに信頼できる相手だったんでしょ。あと男としても魅力があるって思ってたんだろうねえ。じゃなきゃきもいって。

 

この時のアンドレのセリフはほんとぎりぎりで、もうこれ以上となると下品になる、でもこれ以下だと熱い思いが伝わらない。絶妙なんですよ。

しかもアンドレの場合は命の危険をおかしてまでの体当たりの(文字通り)告白だから、これ以上女冥利につきる告白はないわけで。

彼のこの告白は、確実に彼女の官能の扉を開いたのよね。

 

でもジェローデルもさあ、「ずっと女性として見ていた」って言っているので、実は言っていることはアンドレと同じなのよ。でもジェローデルの上品な言い方じゃ伝わらないんだよ〜。

本当はジェローデルだって「隊長をおかずにしてました」だったんでしょうけど、プライドの高い彼が絶対そんなこと言うわけないし、それに言ってたらやっぱりオスカルさまはひくと思う(実写版がまさにそれだった)。

 

アンドレが許されたのは長い信頼関係があったからで(わざわざ子供時代のシーンを挿入するというのはそういうことでしょ)それだけの関係が構築できてないのにいきなりムラムラ来てましたとか言ったら、完全にオスカルさまにシャットアウトされてしまう。つまりジェローデルには最初から打てる手がなかったというわけ。

 

じゃあなんで勝ち目ゼロなのにこの人が出てきたかというと、彼にはアンドレにもフェルゼンにもできない独自の役割があったのだと思う。

オスカルさまがフェルゼンにフラれたからアンドレにいった、じゃなくて、ジェローデルに求められたけどアンドレを選んだ、という形にするために、この人の登場は必要だったと思うのです。

 

フェルゼンからすぐにアンドレにはいかないの。アンドレにたどり着くためには、もう一人必要なんですよ。

結局二人の男よりアンドレがよかった、という結論になるのではあるけれど、やっぱり一回ジェローデルに求められる、というのは大切なステップだった。

 

アンドレに性的に求められることはもちろん重要なんだけど、ジェローデルに社会的に求められること(=結婚を求められる)も大事なの。

これでようやくオスカルさまは自分を「身体的にも社会的にも男性と結ばれることのできる一人前の女」と自己肯定できて、ここで始めて恋愛のスタートラインにつけるわけだから。

 

で、ジェローデルの役目は「社会的な男」なんだけれども、「性的な男」の役割はアンドレにもう取られているので、気の毒なのだけれどジェローデルは性的な魅力を押し出すことが出来ない。これは小学生相手の少女漫画においてですら、彼を非魅力的なキャラクターにしてしまっている。つまりは彼って、「男」じゃないんだもん。

 

本来はプロポーズする男ももっとセクシーでもいいんだけど、わかりやすくするためにアンドレと役割をわけてしまったのでしょうがないんだよね。

それにこんな終盤にきてジェローデルがセクシーなライバルとして出て来たら、話がめんどくさくなる(笑)。「はいからさんがとおる」にでてくる冬星さんは、セクシーなライバルだからめんどくさかろう!

 

でも後から描かれたエピソード編ではちゃんと色気ある男になってましたね。むしろ色気過多だったかもしれないが(笑)。ソフィアとの無理ちゅうは立派に男だった。でも男になるのが遅いんだわ(笑) まあ、本編中にあの状態だったとしても、今度はギラギラしすぎててオスカルさま引いてたと思うけど。(読者もこわくて泣いてたと思う)

 

ただどう転んでもジェローデルは貴族代表で、「アンシャンレジーム」の側の人なので、これから貴族社会を捨てるというオスカルさまの相手にはなりえないんだよね。

「女性は結婚して家に入るのが幸せ」と決めつけてるあたりね。

だからあえて魅力のない男として描かれたのかもしれないけれど。

オスカルさまにはすでに「貴族的なもの全般」にうんざりしていたから。

 

一度ベルナールに飾り人形といわれて、ジェローデルに自分の容姿に自信があるか?と聞いていたけど、もうこの段階でジェローデルはないんだよ。

オスカルさま自身、ジェローデルのことを典型的な「近衛」「貴族」の側の人、という認識なんだもん。

 

自分が価値観あわないな〜と思っておさらばした近衛の新隊長と結婚だなんて、それじゃあ何のために近衛辞めたの、結局元通りじゃん?という話。

いや、飾り人形と結婚して、家の中に閉じ込められたらさらなる飾り人形じゃん。前より悪い状態になっちゃう。

別の新世界を求めていたオスカルさま的には一番ありえない相手でしょう。こんな縁談をもってきた父上にもがっかりだよね。まあ父はオスカルさまを旧世界になんとしてもしばりつけたかったんだけど。

 

フェルゼンもジェローデルと同じ貴族・王室側なんだけど、彼は愛のためにすべてを打ち捨てる覚悟があるから、そこはオスカルさまと同類なんだよね。やっぱりこの二人は立場は違っても価値観が同じだから親友なのよ。ただ恋人としての相性は多分最悪。それは二人とも破滅的なタイプだから。二人とも、愛する相手も自分も破滅させてしまうのね。

 

アンドレは破滅的じゃないんだよ。オスカルさまに他の男の影が見えるとその都度発狂するけど、基本的には情緒の安定した男。

だからちょっとメンヘラ気味のオスカルさまには一番いい相手。オスカルさまが安心して甘えられる唯一の相手なんだよね。

多分自己肯定感も高い。「貴族の身分さえあれば」結婚できる、と思ってるぐらいだから、相当自分に自信あるでしょう。

まあ自分に自信があるというよりか、オスカルさまを一番理解し助けられるのは自分だという経験からくる自負があるんだと思うんだけど。

そういう人がなぜあれだけ狂っちゃうかと言うと、やっぱりいつも一緒にいるオスカルさまに共鳴しちゃって、自分に余裕がないとき(フェルゼンやジェローデルの存在によって脅かされるとき)には少し感情が巻き込まれがちになるんだと思う。

 

で、ジェローデルはどうかというと、冷静に見えて実は破滅的なのかもしれない。オスカルさまを本気で好きになっちゃうという時点でもう十分変わり者だと思うし。

オスカルさまのために断頭台の露になってもいいまで言ってたからね〜。あれはもう美学を通り越してやっぱりこの人もちょっとそういう危険なものに憧れるところがあり、それでオスカルさまに惹かれたんだろうなとは思う。

この時代の貴族というものそのものが、すでに破滅を内包しているのだから、貴族というものの代表格であるジェローデルがそういう設定なのもさもありなん。

 

まあそのへんを深掘りすれば彼も魅力的なキャラクターに展開していくのだとは思うけど、本編では時間の都合でまったく深掘りしてないじゃん。

(エピソード編の、母の愛をたっぷりと受けたオスカルさまにひかれたっていうのはちょっと無理がある設定だと思う。それよりオスカルさまのぶっこわれたところにひかれていたのではないかと思うな。いい女のために身を滅ぼすのは男のロマンじゃないかい?)

だから本編しか見ていない私には、ジェローデルというキャラクターはじゃっかん書き割り的に見えてしまうのです。

噛ませ犬、踏み台、という役割の方が大きく前に出過ぎていて、それ以上のところがよく見えないからかな。まあ出番があれしかないのでどうしようもないんだけど。

 

読者が見たことのある貴族の脇役が彼しかいなかったからしょうがないんだけど、初登場時はのちに求婚者になるという予定はなかったと思うの。あまりにもあのキャラ造形がレギュラー化を予想していないのがバレバレだったよね。あの時代、スクリーントーン高かったのよ。レトラセット、1枚800円とかじゃなかった? あと白目だしね。こりゃ人気者の主役の結婚相手にはならないだろうってひと目でわかる。

そういう絵から受ける情報から「この人は後からこういう役割を押し付けられた下端役のキャラ」というサインを読み取ってしまい、もう最初から強敵になりえないことが分かっちゃっていたので、こちら側もあまり真剣にキャラクターを捉えられなかったの。

 

まあいろいろな二次を読んでいれば二次作家さんの描かれる素敵なジェロを好きになっていたかもしれないけど、私AO固定で他の話は読まないのでそういう知識もないのよ。あとエピソード編のキャラはみんなどろどろしていて、乙女な私にはついていけないしね(どの口が……)。

 

アニメの方は前半から登場していたし、あのまま監督が変わらなければもう少しキャラクターが展開していたかもしれないけど、出崎監督には理解できないのか瞬殺されていて、それはちょっともったいなかったですね。

えっこの人これだけっ!?って、アニメから入った私でも呆然としましたからね。なんか風車がからから回っててそれだけで終わってた。ひどすぎる。1話から出てたんだからもう少し役割は用意されてもよかったと思うんだけど。

 

そんなわけで私にはちょっとジェローデルについて何か書くには、キャラの情報量が足りないかなという感じです。

いや、別にないところにもでっちあげて書けるんだけど、なんていうか存在目的がかなり固定されているキャラなので使いにくいんですわ。どうしても当て馬しばりになっちゃうでしょ。

 

でも次では彼の話を書くと思います。オスカルさまの破滅的なところに惹かれてしまう、滅びゆく貴族という種族のジェローデルみたいな。

とかいいつつ、頭の中にはえすでえむな話もあるので(またかい)そっちが先に出るかもしれないし、全然違う別の話が飛び出るかもしれない。というわけで長い目で見守っていただければ嬉しいです。