- 谷崎潤一郎文学の着物を見る: 耽美・華麗・悪魔主義 (らんぷの本)/河出書房新社
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谷崎潤一郎の作品のヒロインたちは、どのような着物を着ていたか。
作品の描写からはもちろん、作品発表当時の挿絵や、夫人やその姉妹たちの当時の写真を参考に、大正から昭和初期のアンティーク着物を組みあわせ、再現してみせたのがこの本です。
楽しい試みですね。
『細雪』の三姉妹(幸子、雪子、妙子)、『痴人の愛』のナオミ、『春琴抄』の春琴、『猫と庄造と二人のをんな』の福子など、どれも皆、それらしい装いが並びます。
中でも『細雪』の贅を凝らした華やかなお嬢様の着物と、『痴人の愛』のナオミのアバンギャルドな装いの対比に目を見張ります。
小説の中に当時の着物の描写があっても、よくわからないと、テキトーに読み流したりしがちですが、こんなふうにビジュアルで理解できると、より面白く読書できますね。
手ぬぐい好きなので、立湧、七宝、露芝などの伝統的な柄は知っていますが、日本名の色となると、鴇色なんて想像のつくものはともかく、新橋色とか納戸色なんて出てくると、何それ???でお手上げな私。
簡単な着物用語とともに、少しだけですが紹介されているのも、興味深いです。
そして、この本が凄いのは、着物の紹介だけに止まらず、作品のあらすじ、発表時の挿絵、果ては谷崎の人生、嗜好まで取り上げているところです。
なぁんとなく知ってるつもりだった谷崎の作品や生涯(というか、ほぼ女性の嗜好ですが)の「耽美・華麗・悪魔主義」の部分の、へぇー、そーなんだーと引いてしまうような内容に驚きました。
この本のコピーの「百年たってもいかがわしい!!」に、的を射てるなぁと頷きました。
確かに「いかがわしい」。
エロエロやん。
『鍵』とか、『瘋癲老人日記』なんて、ドン引きします。
M的嗜好といい、足フェチといい。
でも、この二作品、挿絵が宗像志功なんです。
素晴らしいチョイス。
その開けっぴろげで、おおらかな版画が、かえって似合っているような気がします。
宗像志功の他、高畠華宵、竹久夢二、歌川国貞など誰もが知っている有名どころの画家たちの挿絵や表紙に使われた絵も掲載されていて、そこも楽しめます。
あと、『源氏物語』の訳者でもある谷崎が、光源氏のことを嫌っていたというのを面白く思いました。
同じく女性好きであっても、光源氏とは対照的ですもんね。
谷崎の女性観がよくわかる文章です。
一途で、正直な人なんですね。
まぁ、どっちもどっちですが。。。
ほんの偶然のめぐり合わせで
ゆくりなく縁を結んだ
女どもを捉えて、
「年頃思いつづけていました」とか、
「死ぬほど憧れていた」とか
いうような
お上手を言うのは許し難い。
――「にくまれ口」