おしゃれのベーシック  光野桃 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

光野 桃
おしゃれのベーシック


ちょっと疲れてくるとこういう軽めのエッセイを読みたくなります。
ファッションについてのエッセイです。



白いブラウス
ケリーバッグ
バレーシューズ
パールのピアス
細く巻かれた雨傘
イニシャルの入ったストッキング
カルティエの時計
トレンチコート

著者の定番なのでしょうか、最初にあげられた写真、どれもとても綺麗です。



このエッセイは、「自分スタンダード」といえる自分だけの定番を見つけることをテーマにした前半と、著者の思い入れのある15のブランドについて語られた後半とで構成されています。




以前、勤めていた会社の上司(男性)の口ぐせが「社会人らしく」と言うものでした。
制服があったので、通勤着で仕事をすることはないのですが、”社会人らしい”服装チェックも厳しくて、注意される人もいました。
このエッセイのなかの「外見は思いやり」を読んで懐かしく思い出しました。

著者がイタリアで仕事をしていたときのこと、イタリア人は外見重視で面倒だと愚痴ったら、そんな彼女を諭してくれた友人の言葉です。


  「外見って、思いやりなんだよ。初対面の人に、中身までじっくり見る時間があるわけじゃない。だから外見で自分をちゃんと表現できなきゃ」


なるほど、なるほど。
確かに言えてます。
思いやりが過ぎて、ほとんど脅迫化してるのは困るけど。




そして、「引きの目線」で語られるのは、<みんなこぎれいで、上質なものを身につけいて、それなりに凝ったおしゃれをしているのに、遠くから見ると、存在感が薄い>日本人です。
<作りこみすぎてちまちました感じ>なんだそうです。


そういえば、私がネイルサロンでアルバイトしていたときに聞いた話でも、アメリカでは結構雑な仕上がりでもOKで、それよりもスピードを要求されるそうですが、日本人はスピード+丁寧な仕上げを望みます。
爪と皮膚の間に髪の毛一本ほどの隙間をあけてポリッシュを塗ることを要求されるのです。
確かに几帳面という気がします。
細かなところについつい目がいってしまうのでしょう。


それともう一点、私が感じたのは、日本人は他人と同程度というのを好むところに原因があるのではないかなと思います。
まったく同じではイヤだけど、あまり違いすぎるのも嫌い。
学生のときから着用している制服にも原因があるのではないでしょうか。
同じものを着ているけれど、靴下の折り返しがちょっと違ってたり、襟の立て方が異なっていたりと細部で個性(これを個性と呼んでいいのかちょっと迷いますが)を表現してきた、または、細部でしか人との違いを認められなかったということがあるように思えます。



そういった背景も含めて「自分スタンダード(自分の定番)」を見つけるというのは大変だけど、おもしろそうです。



軽い気持ちで読み始めましたが、著者が暮らしたイタリア、バーレーンの女性たちの文化比較なども興味深く、結構DEEPで考えさせられました。


自分に合うものを探すのも大切だけれども、自分に合わせる努力をより必要とするということがよく解りました。
よく言われる”自分探し”、私は自分って探すよりも創るものだと思うから、著者のこのエッセイとてもおもしろかったです。
彼女は、単にオシャレなものを探して身につけただけじゃなくて、いかに自分のものにしてきたかが語られていて、すがすがしい気分になりました。
ショッピングにも行きたくなったけど、購入したものをどのように自分に取り込んでいくか妄想?をたくましくして考えるのも楽しそうです。





  服は、店から連れて帰ってきてから、着て外に出るまでの間が大事なのだと思う。ここでどれだけ自分らしい雰囲気に引き寄せることができるか、それが自分の定番スタイルになるかどうかの分かれ道。買っただけ、着られただけで満足してしまってはだめで、コーディネイトを考える「寝かせ期間」、いわば熟成する時間がないと自分のものにはなっていかない。






> 青子さん、おはようございます。この方のエッセイ、私大好きなんです。嬉しくてレスしてしまいました。
「外見は思いやり」の話も印象に残りましたが、「ひらり・・・と」という“おしゃれな印象をつくるものは、何を着るか、ということだけではなく、どうメンテナンスしてどう収納するか、外から見えないそんなことが、そのひとのたたずまいとなり、オーラとなって放たれる”という言葉に影響を受け、今では洋服はコットンでも石鹸をとかしたぬるま湯で押し洗いして陰干ししたり、リネンウォーターを使ってアイロンをかけたり、慈しみながらお手入れしています。
―購入したものをどのように自分に取り込んでいくか、考えるのも楽しそう―そうですね、服は自分を表現する、心を豊かにするものなのだと思います。 (2007/05/30 09:42)
青子 > 澪さん、レスありがとうございます。綺麗に着るためには、やはりメンテナンスに手をかけないといけないということですね。私もいくつかクリーニング屋さん泣かせの洋服(特に細かいプリーツのスカート)を持っていて、もしかしたらダメになるかもしれませんよと脅されながら、お願いしています。<なるべく洗濯しないのよ>の言葉にはすごく頷きました。洗濯前と後ではやはり違いますよね。でも、洗濯しないわけにはいかないし。(-_-;) 
このエッセイ集は、ファッションのことだけじゃなくて、それに付随して著者の生き方に繋がる思想がしっかり表現されているところが、とても好ましかったです。 (2007/06/01 23:28)