
犬のきゃんきゃんという鳴き声が好きではない。
媚びたような子犬のそれは、とくに。
小さいときに家ではスピッツを飼っていた。
きゃんきゃんよく鳴く牝であった。
季節になると尻のまわりが赤くなった。
私は嫌悪した。
季節でよく脱柵し、子を孕むのであった。
庭に柱を立て、頑丈なカラーつけ、
リードで繋いでいたのである。
ある朝、犬は死んでいた。
柱のまわりを走り回って、
リードがくるくると柱にまきつき、
そのまま柵を乗り越えようとして、
首が扼されて死んだのだった。
訪問先へ行くメトロには余裕で乗った。
駅を出て加速しだした電車が突然、
「ギャーーーー!!!」
叫び声とともに急停車した。
ホームの乗客がザワザワとある方向を見つめている
車内が不穏のそれでシーンとする。
もしや、、、
皆同じ思いである。
きゃーーんきゃんきゃんきゃん!!
小犬とも赤ちゃんともまごう声が響いて止まない。
—— パリのメトロでは犬連れをよくみかけるが、
日本でもそうなったのかしら。
「ただ今、お客様と電車が接触しましたので状況確認のためにしばらく停止します」
では、あれは人の声?
ドアは開かないので確認しようがない。
当該車両でなかったことが幸いだ、と思う。
野次馬根性もちょっとばかり残念、と頭をもたげる。
しばらくして、事態が収拾されアナウンスと共に
徐行運転を開始した。
外を見やると、処理しきれていない生々しい
血だまりが目にはいった。
女どうしの喧嘩で一人が電車に接触した、と小さい小さい三面記事を夕刊にみつけた。
それからもっと、
きゃんきゃん! が女の闇のはけ口のような気もして、
余計嫌いになった。