寝ても醒めても ~ Nuit et Jour ~-goaisatsu_mushi.jpg













ヒグラシの物悲しく鳴く秋になりました。
『枕草子』では、「秋は夕暮」です。
夕日が山の端近くなって烏の群れが急ぎ、
彼方の空に雁の往くのが小さく見えます。いとをかし。
「日入りはてて 風のおと 虫のねなど いとあはれなり」と。

虫は好きです。
虫を愛ずるのです。
クワガタ、カブトの甲殻機動隊や、
美々しさを誇る蝶類には興味がありません。
縁側の下に巣くう土蜘蛛のひとつずつを清掃し、
ダンゴムシは枝先で転がして弄び、
トンボと穴のあくほど見つめ合い、
カマキリとは一緒にダンスをして失神させました。
みの虫、てんとう虫、鈴虫なんかもいい。
私の卑怯な腕力の指向性。

本には虫だけでなく、紙魚もいます。
私は紙魚だったのかもしれません。
父の書斎から訳もわからぬ本を抜き出して、
ページをめくり、黴(かび)に浸る。

身体にうずく虫を感じた頃合いから、
虫と対話をはじめました。
人に宿る虫のさまざまを聞き、
それを紙の上に蠢かそうと思ってきました。

いくつかの作品のうちのもの。
お楽しみいただけたら幸いです。

◎虫話『恋』
http://stardustpress.jp/novel/story_list/14/

◎虫話『淫』
http://stardustpress.jp/novel/story_list/10/