地球深部探査船「ちきゅう」 | 青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba

地球深部探査船「ちきゅう」

 9月10日午後、静岡県清水市の清水港で独立行政法人海洋研究開発機構地球深部探査船「ちきゅう」の視察を行いました。

 2005年就航の「ちきゅう」は、2012年3月12日の“世界初!メタンハイドレードガス採取に成功”のニュースで一躍脚光を浴びました。
 このニュースは渥美半島沖のメタンハイドレード(注:メタンガスを含んだ氷状の物質。日本近海に豊富に眠るといわれ、将来、資源少国日本の自前エネルギーになる可能性に期待が高まっている)海洋産出試験事前採掘で、「ちきゅう」が行った初の資源採掘の成果です。

 本来の建造目的である科学採掘も数々の成果を挙げており、中でも東南海沖巨大地震の地震断層調査や、東日本大震災の震源域である宮城沖の断層調査はこれまで見ることのできなかった深海底下の地層調査に成功し、現在分析が行われているそうです。

 あまり報道されませんでしたが東日本大震災発生時、「ちきゅう」は八戸港に停泊中で大地震と大津波に遭遇。津波の高さや大型船であったことなどが幸いし、被害は船底に6基設置されている「アジマススラスタ(既報:新青丸にも設置)」という360度回転可能なスクリュー1基が破損しましたが、しばらくの間残る5基で操船し掘削調査を続けたそうです。

 世界各国(特に米国、北欧)には商業ベースの大型海底掘削船を所有する企業はありますが、国が所有する「ちきゅう」規模の船で各種の世界一の性能を誇る採掘船は他国にはなく、ようやく日本が主導する調査・研究プロジェクトが行われるようになってきており、海洋立国日本を目指さなければという気概が研究者や技術者から感じられます。

 今年後半の東南海地震予想震源域調査に向かうため、清水港に寄港して準備中のところを乗船・見学させていただきました。



$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 車窓から見た清水港興津ふ頭に停泊中の「ちきゅう」船首部。先週視察した新青丸は1500tで全長66メートル、「ちきゅう」は57,000tで全長210メートルと大きく、中央のやぐらは巨大で不思議な感じがしました。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)平理事長他から説明を受けました。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 昨年から今年の計画表。昨年度5月下旬まで、東日本大震災震源域深海調査を行っていたようです。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 研究区画にて深海地層物質の説明を受けました。掘削採取した地質試料は1本が1,5mほどの筒状で、どんな物質が含まれているか解らないためCTスキャンや嫌気状態でサンプルに触れる機器など危険回避設備で解析後、縦に切断して更に観察分析されるのだそうです。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
「東日本大震災震源域の深海地層標本」
 過去の地層のズレの影響で普通の地層のような繋がりがない地震帯の地層を初めて見ることができた貴重な試料です。まだ、分析中ながら地震のズレは数ミリの幅で起きており、長さ50m程度、高低差は5m程度の範囲で起きたと考えているそうです。
 海底6,889m、更に海底下820mから採取された標本であり、地層の境界付近はこのようにもろい地質なのかとたいへん驚きました。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 ブリッジは新青丸の4倍近い広さ。操船は舵輪ではなく自動車のハンドル程度でした。接岸していても潮流の影響などで艦船が動くのでエンジンはONのままで、船底のアジマススラスタがコンピュータ制御で位置を保っているそうです。操船は外部委託で人的効率を上げ、コストを下げているそうで、年間の稼働日数も自前運行時より5割近く高まっているそうです。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 安全帽、安全靴、更に防護服、防護メガネでメイン甲板を案内していただきました。降下させたドリルパイプを回転させる装置「パワースイベル」

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 普段は甲板上にねかせて積み込まれているドリルパイプやライザーパイプですが、次の東南海地震域探査が決定しているため停泊中につなぎ合わせ、縦に保管されています。探査時はこれらのパイプが海底深く伸ばされていきます。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 パイプ挿入口は危険なので蓋が閉まっていましたが、数十メートル下は海面です。船体から海底にドリルパイプを降ろして遠隔操作で作業するということは、急激な天候悪化や海底からのガスの噴出など、危険な時にも船体は自由に動けませんので、安全を保つため緊急時のパイプ切り離しもドリラーの判断で行うのだそうです。一人前のドリラーになるには10年以上の経験が必要で、一人前になると国外の商業掘削会社から高額での引抜きもあるそうですが、国内の大学に海洋工学学部が少なく人材が不足するのをスタッフは心配していました。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 所狭しと大型機械類が設置されている上部甲板。パイプ類を移送したりつなぎ合わせたり、持ち上げて移動したりと各種の機械類が効率がよい箇所に設置されています。

$青木愛オフィシャルブログ「いま、原点に立ちかえる時。」Powered by Ameba
 やぐらを背にヘリデッキにて。やぐらは船底から130mの高さで、ヘリデッキは30人乗りの大型ヘリが発着できるそうです。探査が始まると数か月間同じ地点にとどまるので、研究者は別ですが、作業員はヘリで移動交代するそうです。



 機構側の要望は、やはり海洋国家としての明確な方針と予算が主でした。
 視察を終え、「3.11後の我が国のエネルギー政策はどうするのか…」、「各省庁の壁を越え、産学官の持てる力をオールジャパンでどう発揮してもらうのか…」等々、考えにふけりながら静岡をあとにしました。

 再生可能エネルギーの活用実態と、各地の新技術による発電施設視察はまだまだ続けたいと思います。








以下、今回の視察の関連リンクです。

JAMSTEC地球深部探査センター「ちきゅう」

「ちきゅう」が活躍したメタンハイドレードの海洋試験関連リンク
事業主
経済産業省
資源エネルギー庁
実施主体
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 JOGMEC