救助の要請は谷川岳警備隊0278722049/谷川岳登山指導センター0278723688←必ず携帯電話に登録。初動は少し遅れるが110番でも可。
はじめに
マチガ沢には山ゆえの『危険』が存在していて、油断すると大怪我や死亡事故に発展する可能性も否めません。
しかし街の中でも、死に至る危険は沢山あります。たとえば「電車のホームから線路に降りるのは危険」とか「交通量の多い道路を赤信号で渡るのは危ない」とか「高層マンションのベランダの手すりを乗り越えて落ちたら死ぬ」とか。
ところが街の中の危険については、大人なら誰もが危険を避ける方法を知っていて、それらは日常生活の一部として当たり前に身に付いているので、特に意識していなくても安全が確保できています。
一方、マチガ沢にある危険は【非日常】なので、山に慣れていない人には実感が無いのですが、たとえ実感が無くても、危険な現象は一定の頻度で確実に発生しています。
今期もマチガ沢のメンバーは増える傾向にあるので、危険な目に遭う確率も相対的に増えるはずです。人数が増えれば個人行動も増えるかも知れないし、その場に経験者が誰もいない事もあるでしょう。
マチガ沢は険谷であり、100%の安全を保証する事は不可能ですが(それは街の中を歩いていても自宅でテレビを視ていても同じだけれど)、今後もマチガ沢で安全にスキー/スノーボードを楽しむためには、メンバーそれぞれが『どんな危険があるのか』『どうすれば事故を避けられるのか』を予め把握しておく事が重要です。
必ず御一読ください。
目次
1.表層雪崩
2.ブロック雪崩
3.落石
4.ベルクシュルント
5.雪渓の踏み抜きと崩壊
6.滑落
7.増水
8.鉄砲水
9.雪上の鋭利な石
10.ゲレンデ両サイドの岩
11.道迷い
12. 救急車が来ない
1.表層雪崩
・概要
主に4~5月、春の降雪後に発生。高さ数mの雪の壁が押し寄せる。急斜面では100km/hを超える。
・頻度
シーズン中に2~3回。
対策①
過去10日間の降雪量/積雪量を把握しておく。
対策②
表層雪崩の危険性が高い日は第1ステージで滑る。(第1は緩斜面だから表層雪崩が達しにくい)。
対策③
常に上流方向をチェック。
対策④
早めの入山と早めの撤収。(気温の上昇と共に発生率アップ)。
対策⑤
S字のドン突きよりも上へ行かない。
2.ブロック雪崩
・概要
初夏、急斜面に架かったスノーブリッジが崩壊して発生する。
発生の直後は観光バス大の雪渓が落ちてくる。重さ数十トン。落石(岩)を伴う事もある。
落ちながら次第に割れて小さくなり、直径20cm~1.5mの氷の塊が、数十個という単位で斜面を転がり落ちてくる。落ちてくる時は無音。球体に近いものは速度を上げ80km/h超。イレギュラーに方向を変える。猛スピードで大岩よりも下流まで達する事も珍しくない。
・頻度
シーズン中に数回。(可能性は毎日)。
対策①
本流・支流のスノーブリッジの状況を、しっかりと観察しておく。
対策②
S字のドン突きより上に行かない。
対策③
雷のような轟音が鳴り響いたら、まずスノーブリッジの崩壊、そしてブロック雪崩の発生を想定し、逃げる準備をする。(無音の場合もある)。
対策④
常に上流方向をチェック。下流を向いての休憩や食事は絶対にNG。
対策⑤
ブロック雪崩はイレギュラーに方向を変える事があるので、大きく逃げる。
対策⑥
休憩中も常にスキーブーツ/スノーボードブーツもしくはアプローチシューズを着用。靴下では逃げられない。
3.落石
・概要
主に急峻な両岸から、時として上流からも落下してくる。
落石と言っても、実際のサイズは巨大な『岩』であるケースも少なくない。
カモシカやシカ等の動物、あるいは登山者が落とす事もある。
多くの場合、無音。
・頻度
シーズン中に数回。(可能性は毎日)。
対策①
両岸の土手や岩に近付き過ぎない。
対策②
常に上流/上方に気を配る。
休憩中や食事中も油断しない。
対策③
落石が起きたら大声で【ラクッ!】と叫んで周囲の人々に危険を知らせる。
4.ベルクシュルント
・概要
雪渓と谷の土手(草付き)との間に生じる煙突状やスリット状の深い穴。(ベルグシュルント、ベルグシュルンド等とも)。太陽の熱を吸収しやすい岩と雪渓の隙間や、水の通り道に出来やすい。
薄い雪渓の下にベルクシュルントが隠れているケースもあり、目視だけでは判断できないので要注意。
落ちたら自力での脱出は不可能。ただちに救助要請する。
・頻度
おおむね毎日。
対策①
両岸に近付き過ぎない。特にウドが生えている所は水の通り道なので、ベルクシュルントが発達している事が多い。
対策②
滑走中にコースアウトしてベルクシュルントに落ちる可能性も否めないので、余裕を持って滑る。
5.雪渓の踏み抜きと崩壊
・概要
マチガ沢の雪渓を踏み抜くと、最大で30メートル垂直落下する(マチガ沢大滝の付近)。
踏み抜きが雪渓の崩壊を誘発し、雪(氷)のブロックに挟まれて動けなくなるケースもある。圧死、全身の強打、複数ヶ所の内臓破裂や骨折を伴う事も。
・頻度
おおむね毎日。
対策①
雪渓の厚さは上流からは判断できないので、朝の遡行中に入念にチェックしておく。
対策②
聞こえるはずのない沢音が聞こえるのは、雪渓が薄くなっている事を意味する。
対策③
雪渓上で行動する際は、1人ずつ約10mの距離を置いて歩く。直前の歩行者のルートを参考に。
対策④
消雪後の地形/渓相を把握しておく。
対策⑤
少しでも崩壊する可能性がある場合は、両岸から巻く(迂回する)。
6.滑落
・概要
マチガ沢はシーズン終盤に近付くほど斜度が増し、なおかつバーンが硬くなって、滑落の危険性が高くなる。
・頻度
シーズン中盤から終盤は、ほぼ毎日。
対策①
積極的にアイゼンを使用する。第3~4ステージがアイスバーンになると12本爪アイゼン必携。
中緩斜面でも簡易アイゼンやダブルストックを使う。
対策②
早めの撤収。マチガ沢の西側は谷川岳なので、日没が早く、すぐにバーンが硬くなる。どんなに遅くとも15時半には現地を出発する。
対策③
カッパ(雨具)はスノーウェアよりも滑りやすいので、なるべく避ける。
7.増水
・概要
マチガ沢がある谷川岳には岩場が多いため、降雨時の沢の増水が早い。マチガ沢のシーズン ≒ 梅雨なので、土壌の吸水キャパが飽和状態である場合も、降雨後すぐに増水する事が多い。
濁流には大小の石も混ざっているので、深さが膝を越える渡渉は非常に危険。
・頻度
シーズン中に2~3回。
対策①
なるべく荒天の日の入渓は避ける。
対策②
[仮称]さくら新道→入渓点990(通称;サンカク)の有効利用。雪渓から[仮称]さくら新道までは、深い藪を漕いでも5~10分あれば到達できる。
※マチガ沢本流~[仮称]さくら新道~巌剛新道の概念を把握しておきましょう。
対策③
上流(マチガ沢の場合は稜線あたり)の降水量にも気を配る。
8.鉄砲水
・概要
沢で起きる津波。崩壊した雪渓が沢を堰き止めてダムを形成し、そのダムが崩壊すると鉄砲水が発生する。大きな鉄砲水に襲われると、概ね死亡事故に至る。
・頻度
ごくまれ。(しかしゼロではない)。
対策①
沢の水量が極端に減るのは鉄砲水の前兆。ただちに川床から5~10m高い場所へ避難する。
9.雪上の鋭利な石
・概要
マチガ沢のゲレンデは厳冬期に頻発する雪崩で成り立っている。雪崩は岩や石を巻き込んで起きるので、雪の中に割れた石が混じっている事が多い。
ナイフのように鋭利なので、素手・素肌で触れると大怪我をする。通称;石器。
・頻度
シーズンを通して毎日。
対策①
整備中やハイクアップ中に見つけたら排除する。
対策②
ヘルメット、長袖、長ズボン、グローブ、各種プロテクター必須。
10.ゲレンデ両サイドの岩
・概要
マチガ沢のゲレンデの両サイドは、基本的に岩である。従って、コースアウトして岩に激突したら無事では済まない。
・頻度
シーズンを通して毎日。
対策①
ヘルメット等プロテクター必須。
対策②
コースアウトしないよう、余裕を持って滑る。
11.道迷い
・概要
登山における遭難の原因ワースト1は道迷いである。マチガ沢へのアプローチは、巌剛新道(登山道)と[仮称]さくら新道(踏み跡)のミックスなので、道に迷う危険性は充分ある。
・頻度
毎日
対策①
必ずルートを熟知しているメンバーと同行する。
対策②
地形図や概念図から、充分に予察(シュミレーション)を行う。
地形図やGPSを使って、常に現在地を確認する。
対策③
迷ったら、分かる場所まで戻る。
12.救急車が来ない
・概要
怪我だけではなく、急病の場合も、電話1本で救急車が来てくれる訳ではない。
歩行不能や急を要する場合は、ヘリコプターの出動を要請。
・頻度
シーズンを通して毎日。
対策①
余裕を持って滑る。帰りの体力を温存する。
対策②
メンバー全員が、その日の行動予定を確認。
対策③
登山届は必須です。登山届を出していないと、たとえ家族が救助要請しても探しに来てくれません。入山しているという確証が無いのに、リスクのある捜索活動/救助活動をする事はありませんから。
対策④
無料の県警ヘリだけでなく、有料の民間ヘリも気兼ね無く呼べるように、山岳保険に入る。
対策⑤
携帯電話必携。キャリアごとに電波状況を把握しておく。
