本川達雄さん

 

2017年6月14日水曜日

 

本川達雄(東京工業大学名誉教授)

 ・ナマコに学ぶスローライフ
 

 長年ナマコを研究している世界でも数少ない生物学者です。昭和22年宮城県生まれ、大学進学では悩んだ末、東大理学部生物学科に進み、30歳で琉球大学に赴任し、ナマコに出会いました。ナマコの生態はほんのすこししか解明していませんが、ナマコは省エネに徹し、海底で天国を作っている。この省エネの生き方こそが、今地球規模の課題となっているエネルギー、食料、環境問題の解決の糸口になるのではないかとお話になります。東工大在職中から始めた小学生への出前授業は、ナマコ研究を通して知った命の尊さを判りやすく伝えたいと、これまでにおよそ150の教室を訪ねました。

 ナマコの研究は35年ぐらいやって来ましたが、これは何の役にもたたないので研究している人はほとんどいません。ナマコを食べるのは日本人と中国人だけです。定年になってナマコとは縁が切れました、ナマコ的な人間にはなっています。のたっとして何にもしない、まな板にのってもじたばたしない。
 

 高校2年の時に大学を決めなくてはいけなくて、理科系の好きな人は工学部に行く人が多かった。豊かさを追う工学部とは関係のない生物学科に行くことを宣言したが、周りは吃驚した。動物は嫌いだった。大学に行ったが、周りは生物が好きな人ばっかりだった。最初、貝、それからナマコ、ウニ、ヒトデ、ホヤ、共通はあまり動かない。脳があまりない。(研究者は非常に少ない)

 ナマコは毒を持っているが人間には効かないが、魚には効く。触るとコリコリに皮が硬くなって身を守る。ナマコを輪切りにすると竹輪みたいになるが、竹輪の白い部分は全部皮で、筋肉は6~7%しかない。(人間は50%が筋肉)皮が軟らかくなったり硬くなったりします。魚にかみつかれたらそこが柔らかくなって、腸をそこから出して、それを食べているうちにナマコは逃げてしまう。
 

 研究するにはまずナマコの生活を一日中見ていましたが、見ていても何にもしない。ナマコは砂を食っています。砂粒の間に海藻のかけら、卵がはいっていたり、砂粒の表面に付いているバクテリアがいたりしてそれを栄養分にしている。眼、耳、鼻などの感覚器官がないので、その情報を処理する脳もあまりいらない。非常にエネルギー消費量が少ない。哺乳類と比べて1/100、貝類とくらべて1/10、それほど食べなくても済む。

 だから砂が食べられて、砂は海の中のどこにでもあり、食う心配がないと何もしなくていい。働かなくてもいい。と言うことは天国に住んでいるということです。人間も天国を作ろうとせっせと働いている。エネルギーをたくさん使っている。3・11の大震災、地球温暖化など、エネルギー大量消費型であると地獄に行くかもしれない。その方向はよくないのではないかと思う。
現代人は凄く時間に追われている。
 

 ナマコを見て居いると、時間が違うのではないかと思って考えると、これはエネルギー消費量に関係している。心臓の拍動をみてみると、はつかねずみは1分間に600~700回、人間は60回、象は20回、身体の大きいほど一拍の時間が長くなる。動物の心臓の拍動時間は、体重の1/4乗に比例してゆっくりになるという関係になる。体重が10倍になると、時間は約2倍ゆっくりになる。心臓だけではなく、呼吸、食べてから排泄までの時間、血液の一巡の時間もそうだし、大人になるまでの時間も同様です。はつかねずみは20日、人間は十月十日、象は600日以上胎内に入っている。小さいものは早く死ぬ。大きいものは長生きです。寿命は身体の大きさでほぼ決まります。

 心臓は15億回打つと、象もネズミも死ぬという関係が生まれてくる。身体は平等にできていて、ゆっくり動かせば長持ちする。身体の大きさとエネルギー消費量を調べると、体の小さい動物ほどエネルギーをたくさん使っている。さな動物の細胞はエネルギーをたくさん使っている。時間の速度とエネルギー消費量はちょうど正比例する、それが動物の体のなかで起こって来る。
 

 心臓を15億回を、人間に当てはめるとだいたい41歳。しかし人間は70,80歳とか長くなっているが、老いが始まるということは身体にガタがくるということです。老いが始まると野生の動物は大概死んでしまう。縄文時代30歳台、昭和22年で50歳、今は90歳近くまでなってしまったが、社会の状況が変わっただけです。感染症が無くなる、食料が豊かになった、医療が凄く効いていて、冷蔵庫の影響も大きい(塩っ辛くしないと食糧を保存できなかったので高血圧などになり易かった。)、冷暖房も効いていて、技術で寿命を伸ばしている。(人工生命体)
 

 ナマコのように省エネに徹すると天国になる。エネルギー使い放題で天国を作ることは危うい。定年は寿命とのかかわりでガタが来て、程ほどに卒業しなさいよと言うことで決まってきている。人工生命体として尊厳のある生き方を考えたいなあという気がします。

 出前授業。私の書いた文章が小学校、中学校、高校などの国語などの教科書に載っていて、顔を見せに行って授業をしています。授業は「生き物は円柱形」という生き物の形の話です。生き物のもっとも生き物らしいところは多様ということだが、しかし共通性がある。形の上での判りやすい共通性は、生き物は円柱形だということだ。指、首、胴体もほぼ円柱形、身体全体も円柱形と見ることが出来る。何故円柱形なのか、ということを子どもたちとやり取りしながら勉強しています。
木、枝などもしかり。
 

 円柱形で無い部分もある。平らなものもある。掌、表面積が大きいからしっかり握れば摩擦力は大きく、しっかり握れる。粘着テープは同様。
 

 耳は平たい。音を集められる。象は耳で熱を発散させる。特にインド象に比べアフリカ象の耳は大きい。(アフリカゾウの方がサバンナで身体が熱くなる)

 

インドゾウ                       アフリカゾウ


 平たいものには意味がある。葉っぱは広い面積で光合成する。花は広くして虫に蜜があることを宣伝している。それぞれ生き物の形には意味がある。円柱形は弱い方向がない。(葉っぱの筋、トンボの翅の筋などもそうです)
出前授業は100回を越えました。

 資源、エネルギーは次世代が使えるようにしておかないといけない訳で、時間を長く使えばエネルギーを長く使える。今はエネルギーをどんどん使って時間が早くなってしまっている。食べるエネルギーの30倍をつかってしまっている。30倍時間が早くなってしまっているのかもしれない。
 

 世代は早くないと負けてしまうのでそれはしょうがない。.現役は早くてもしょうがないかもしれないが、定年になったら時間の速度を落として、その分資源もエネルギーも使わなくて済むし、次の世代にも渡せるので、なるべくエネルギーを使わないように心がけたいと思っています。