(あ〜、タイクツ)
昼下がりの飛行島。お気に入りの昼寝場所である大樹の枝の上でキャトラは大きな
欠伸をした。
飛行島に向かっていた飛空艇が墜落した。事故か、魔物の仕業かは不明である……冒険者ギルドからそんな情報と共に救援の要請が入ったのは、今朝早くのことである。この飛行島の主たる赤毛の少年も、アイリスも、この島に滞在していた主だった冒険者たちもこぞって出かけてしまった。手の空いたヘレナはここぞとばかりに新作のパイの研究開発に勤しんでいるし、バロンは何やら難しそうな分厚い本を読み耽っている。そんな状況なので、遊び相手のいないキャトラはただただ暇を持て余しているのだ。
(お昼寝にも飽きちゃったわね。なーんか、面白いことないかな……)
そんなことを考えながらグッと伸びをした時……
「あ、キャトラだ!」
「本当だ! かーわいい!」
と、いう無邪気な声が下の方から聞こえてきた。見れば、今ひとつサイズの合っていない装備を身につけた少年と少女の姿。まるで鏡に映したようにそっくりなその顔を見る限り、どうやら双子であるようだ。
「これこれ」
キャトラは身を乗り出し、二人に声をかけた。
「呼び捨てはちょっと失礼なんじゃない? あたしのことはキャトラさんと呼びなさいよ」
二人は顔を見合わせてから、同時に『はーい』と声を上げる。
「素直でよろしい。見たところ、この島を訪れている冒険者の子供たちかしら? 飛
行島へようこそ」
キャトラはしなやかな動作で枝から飛び降り、ふかふかの草が生える樹の根元に着
地した。
「すごーい、本当に喋ってる!」
「わたし、喋る動物って初めて見た! ねぇねぇ、キャトラさんはどうして喋れる
の?」
二人が向けてくる好奇心いっぱいの瞳は、キャトラの自尊心を的確にくすぐってくる。
「う〜ん、それはアタシにも分かんないわ。でもね、アンタたちも一人前の冒険者になったらわかると思うけど、世の中には不思議なことって色々あるものなのよ」
「へ〜、キャトラさんは不思議なものを見たことがあるの?」
「いくらでもあるわよ。アタシはこう見えてもベテランの冒険者なんだから……」
そう言い掛けて、キャトラは双子から顔を背けてニヤリ、と笑った。それは、キャ
トラが何か良からぬことを思いついた時に見せる、いつもの表情だ。
「アンタたち、アタシが体験した不思議な話、聞きたくない?」
「その村は確かシーダス・ワンプっていう変わった名前だったわ。アタシたちはギル
ドから依頼を受けてその村に行くことになったの。でも、その村は地図にも乗ってな
いような村でね……どういうわけかギルドからも正確な情報が提供されなくて、アタ
シたちはわずかな手がかりを頼りに聞き込みから始めなきゃならなかったのよ……結
局、その村に辿りつくまで三日かかったわ
「でもね、着いてみたらその村は普通の村だったわ。アタシたちは村長さんの家に招
かれてご馳走になって……詳しく依頼内容を聞いたの。その村にとって大切なある
『場所』を探して欲しいって……変だと思わない? 大切な『場所』って言いなが
ら、その位置が分からないなんてね。
「それでも、依頼は依頼だからアタシたちはその『場所』を探しにいったのよ。鬱蒼
としげる、森の奥へね……」
つづく(╭☞•́⍛•̀)╭☞
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