早朝

玄関先に出ると

冷たい空気が私の身を包み

 

私は羽織った厚手のカーディガンの

両腕を自分を抱くように握った。

 

4月の初め。

 

もう春なのだが

ここ北海道は

まだまだストーブがかかせない。

 

2日後

悠真は東京へと旅立つ。

 

準備はすでに整った。

 

整っていないのは

なかなか子離れできないでいる

私の心だけだ。

 

初めて我が子を手元から離すこと。

 

それは成長の証で嬉しくもあり

誇らしくもあるのだけれど

その何百倍も寂しいというのが本音だ。

 

でもそれは

どこの親も一緒なのではないだろうか。

 

夫が突然家を出てからの私は

口に出すことも

態度に出すこともないのだが

長男である悠真のことを

心の中では頼りにしていた。

 

半分大人で半分子供の悠真。

 

そんな私の心持が

知らず知らずに悠真に伝わって

負担をかけたことも

多々あったことだろう。

 

そう思うと申し訳ない。

 

予定通りの大学への進学

進学費用の確保

そして進学の準備

 

両親が犯してしまったことの贖罪として

私は今の私にできる精一杯をした。

 

しかし

わかっている。

 

精一杯したからと言って

それが決して

足りてはいないということを。

 

だから本当に申し訳がない。

 

謝っても謝っても

許されるものではない。

 

 

 

今朝の朝食は

ご飯

昨夜の残りのワカメと玉ねぎの味噌汁

アジの開きに卵焼き

きゅうりのぬか漬け。

 

3人の子供たちは

ワイワイと食事を済ませた。

 

いつも通りの我が家の朝。

 

いつも通りでないのは私だけ。

 

紙袋とカバンを持って

リビングの子供たちの前に立つ。

 

「じゃあ、悪いけど

お母さんちょっと出かけて来るから」

 

「はいはい。わかりましたよ~」

テレビゲームのコントローラーを

握ったままで健斗がそう言った。

 

「お昼は鍋のカレーを温めるだけに

なってるからね」と私。

 

「わかってるから大丈夫」

悠真がそう言った。

 

学校は休み。

 

今日は兄弟3人で

一日ゲームをする約束らしい。

 

しばらく3人ではできないからだそうだ。

 

3人ともテレビの画面にくぎ付けで

私を注視しないのが

今日の私には都合がいい。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

元気な声を張り上げると

私は玄関を出たのだった。

 

そう

 

行き先は家庭裁判所。

 

今日は第一回目の

婚姻費用減額調停の日だ。

 

私は途中の総合公園の駐車場で

車を停めた。

 

助手席に置いた紙袋を手に

公衆トイレへ。

 

紙袋の中身はスーツに黒靴。

 

私はセーターとデニムを脱ぎ

そのスーツに着替えた。

 

子供達には友達の家に行くと言ってある。

なのにスーツではおかしい。

 

着替えを終え

車に乗り込むと

私は裁判所を目指した。

 

遠目から裁判所の駐車場には

夫の車がないことを確認しほっとする。

 

未だ夫が怖い。

 

裁判所……

このいやな緊張感は

いくら2度目でも慣れるものではない。

 

しかし逃げられるものでもなく

私は立ち向かうしかないのだ。

 

一つ深呼吸をし

私は家庭裁判所の門をくぐった。

 

 

 

 


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