ようやく夫が電話口に出た。

 

「麗子です……」

 

「なんだよ」

 

その一言を聞いただけで

私は息が苦しくなった。

 

「ファックス見てくれましたよね」

 

「だから、なんだよ」

 

「支払いに行ってくれないと

悠真、東京で暮らせないんですけど」

 

「知らねえよ」

 

どの口が言う?

 

いったいどの口が言う?

 

あなたは悠真の父親でしょう。

 

「調停で進学にかかる費用は

あなたが払うって約束しましたよね?」

 

「そうだったかな」

 

「調停の記録にも残ってますよ。

その約束を破るんですか?」

 

「……」

 

「あなたね

私が知らないと思ってるかもしれないけど

ベンツ買いましたよね?

女に赤いクラウン買ったよね」

 

「えっ?……」

 

「えじゃないですよ。

そのお金はどこから出たんですか?

あの赤いクラウンなんて

現金で買ってるじゃない。

買った値段も知ってますよ」

 

「……なんでそんなことお前が」

 

「あなたがね。

やってることは全部

私の耳に入ってくるのよ。

なんにも知らないと思ったら

大間違いだからね!」

 

必死以外のなにものでもない。

 

なんとしても悠真の出発に

間に合わせないといけないから。

 

せっかくの門出に

ケチをつけさせることはできないから。

 

出発はもう目の前なのだ。

 

「だれから聞いた?」と夫。

 

「そんなことはあなたには関係ない。

いいからさっさと支払いに行きなさい。

行かないならこっちにも

考えがあるから」

 

「考えってなんだよ。

どうせお前にはもう

弁護士雇う金ないだろ」(笑)

 

「そうだね。

でもね、あなたの社長会の人たちに

相談に行くことはできるよ」

 

「なんだって?」

 

「だからあなたが今懇意にしてる

社長会のメンバーに一人一人

相談に行きますって言っています。

どうにかしてくださいって

お願いしてくる」

 

「ふざけんなよ、お前」

 

「私だってそんなことしたくない。

だけどあなたが約束守らないなら

私は社長会の人たちに

会いに行く。」

 

「そんなことしたらただじゃおかない」

 

「そんなこと言ったって

私は引かないよ。

本当に行くからね。

いやなら今すぐ支払いに行きなさいよ。

あれぐらいの金額支払えないわけ

ないでしょう」

 

「……」

 

「私は本気ですからね。

社長会の人たちに

あなたがやってること話に行くから!

それがいやならいますぐ行きなさい!」

 

脅し……

 

脅迫なのだろう。

 

本気で言っているのだから

そうはならないのかな。

 

そんなことはどっちでもいい。

 

悠真が晴れ晴れとした気持ちで

新生活を始められるならそれでいい。

 

脅迫したと責められることになっても

後悔はないのだ。

 

返事をくれずに携帯は切れた。

 

体がブルブルと震えた。

 

行ってくれるのか

どこまでも行かないつもりなのか

もう私にはわからない。

 

疲れた……

 

もう無理だ……

 

私はそのままソファに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 


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