私が今日目標としてきたもの、全て夫に了解させることができた。

 

「それでは、休憩を挟んで裁判官同席の元、お話がありますので一旦待合室の方でお待ちください」


調停委員がそう言った。

 

私は結城弁護士と持ち合い室に戻った。

 

「麗子さん、頑張りましたね」

 

「先生、これで長男を希望の大学に送り出してやることが出来ます…ありがとうございました!」

 

あんなにはっきりと、言いたいことが言えたのは、結城弁護士との綿密な打ち合わせと、先生の後押しがあったからだ。
先生が私を信じて、私に思いのたけを発言させてくださったからだ。


私の目から涙がこぼれた。
いつもの涙とは違ううれし涙だ。

 

「麗子さんの頑張りですよ!」と結城弁護士。

 

「先生、ところで裁判官からお話っていったいなんですか?」

 

「調停は今日で終わりって事です。離婚調停は不成立です。裁判所はこれ以上話合いを続けても、結論が出ないと判断したんです」

 

「え?今日で終わりなんですか?ということは、もうここに来なくてもいいんですか?離婚はしなくていいってことですか?」

 

「そうですね。今回のこの調停では、離婚にはなりませんでした」

 

そうか。


長男の進学費用を確保できただけでなく、もうなんだかんだと離婚を迫られる調停も今日で終りなのか。
私は今まで両肩に背負っていたものが、軽くなったようで力が抜けた。

 

「それでは、もう一度調停室にお願いします」

 

休憩が終ると、書記官が私たちを呼びに来た。

 

調停室には裁判官、二人の調停委員、そして書記官、夫とその弁護士が既にいた。


そしてそれから裁判官により、離婚調停の不成立の確認が行われた。


不成立と裁判所側が判断した理由などが述べられたが、最後に裁判官が私に向けて言った。

 

「麗子さん、息子さんの大学2次試験、うまくいくといいですね。うまくいくように私も祈っていますよ」

 

「ありがとうございます…ありがとうございます…」

 

本当ならば一番祈らなければならない父親と、赤の他人でもこうして祈ってくれる裁判官と。


夫や義父母や美加の母のような、私の考える常識を逸脱した人間に関わってきたこの1年半。


世の中には裁判官のような善人もいるんだなと思うと、私の心は救われたのだった。

 

やった…
やりきった…

これで晴れて、悠真を希望通りの大学に送り出してやることができる…。

安心した4年間の大学生活を送らせてやることができる…。


私にはこれ以上のしあわせはない。

母親だから。

 

我が家を、羽ばたいていく悠真の未来に幸あれ。

 

2次試験まで後一か月を切った冬のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不倫離婚が

多くなって何年になるだろう…。

 

最近は

当たり前のようになりすぎて

有名人の不倫離婚も

さして話題にならなくなったように思う。

 

でも

世間に知られないだけで

ひどい目に合いながらも

半ば泣き寝入りのような形で

離婚せざる負えない母子が

今もたくさんいる。

 

両親には他人にはわからない

諸々の事情というものがあって。

 

でもいつも

しわ寄せを食らうのは弱者。

 

子供だ。

 

子供は好む好まないに関わらず

親が与えた環境の中で

生きるしかない。

 

それが両親が憎みあう

悲嘆な環境であっても。

 

そんな環境に

置かれている多くの子供たちが

どうか

どうか

自分らしい

明るい未来を

手に入れてくれることを

切に願ってやみません。

 

        しずく