夫の不倫相手の女は

上野美加。

 

夫より5歳年上の50歳。

 

北海道のこの街で生まれ

高校を卒業すると

就職で東京へ出て行ったらしい。

 

そして東京で

一人の男性と出会い結婚をした。

 

住処を大阪に移し

男の子一人をもうけた。

 

そして夫に不倫され離婚。

 

どれくらい経ってのことか

知らないが

離婚して大阪から

一人息子を連れて

北海道のこの街へ

帰って来たのだという。

 

離婚してから女は

大阪の夜の街で働いていたらしい。

 

北海道に戻ってから

女は昼の仕事を求め

職を転々としたのだそうだ。

 

転々としたということは

一つ所に留まれなかった

ということで。

 

それが

どんな理由かまでは聞いていない。

 

だが、それがなんなのかは

なんとなく想像がつくのは

私だけだろうか。

 

結局夫と知り合ったときは

生命保険の外交員に

なったばかりだったとのことだ。

 

察するに

彼女の人生もまた

ずっと順風満帆だったとは

私には思えない。

 

もちろん私には全く関係の

ないことで

余計なお世話なのだが。

 

しかしながら

我が家族に関わってきたのは

彼女からなのだから

そこらへんは責められる謂れは

私にはない。

 

夫という存在を

突然無くした女の気持ちは

私にも痛いほどわかる。

 

一人息子を抱え

年老いた母親との3人暮らし。

 

金銭的にも精神的にも

心細い時もあったのではないだろうか。

 

なにを言いたいかと言えば

 

たぶん彼女も

彼女なりに

必死に生きて来たんだと思う。

 

愛する息子と母を

しあわせにするために。

 

夫を他の女に奪われる妻の気持ち。

 

夫がいて子供がいて妻がいて

そんな家庭がかけがえのないもの

なんだという気持ち。

 

女は私がこの1年で味わったもの

ほとんどを既に知っている。

 

たぶん

いやというほどに。

 

それでも上野美加という女は

これをやるのか。

 

世の中には

例えば自分が嫁に来た時

散々姑にいじめられたから

息子の嫁に同じことをしてやろう

そう考える人と

自分がやられて苦しかったから

だから自分はやらないと

いう二通りの人がいる。

 

彼女は前者か。

 

星の数ほどの女がこの世にいるのに

我が夫はそういう人を

新たな生涯の伴侶に選んだ。

 

同じ選ぶのなら

もう少し良い人が

いくらでもいただろうに。

 

情けない。

 

なんて言ったって

夫を選んだ私も人を見る目がない

ということで

情けないのは夫と同じだ。

 

 

 

そんな美加の話が

ある日私の耳に飛び込んできた。

 

以前

夫が仕事を抜け出して

美加と会っていたところの

写メを撮って送ってくれた

友達の京子だった。

 

「麗子、元気?

元気なわけないよね、ごめん…」

 

しばらくぶりの電話で

何を話したらいいか

わからないと言った風な京子。

 

きっと私の現状は

噂で聞いて知っているだろう。

 

知っているのなら

私が逆の立場でも

なんと声をかけたものかと

迷うだろう。

 

「大丈夫だよ。

京子、心配かけてごめんね」

 

「そんなことないよ。

何度も電話しようと思ったんだけど

なにをどう話したら

麗子の力になれるのか

わかんなくて電話できなかった」

 

「うん、京子の気持ちわかる。

だから大丈夫」

 

「でもね、今日はどうしても

電話しないでいられなかった」

 

「なに?なにかあった?」

 

「私、腹が立って腹が立って

どうしても黙っていられないんだよ」

 

「なに?なに?話してよ」

と私。

 

「実はさ

旦那さんと不倫女が会ってたクラブ

あるじゃん?」

 

「うん、駅裏のドルチェね」

 

「あそこね

うちの旦那もたまに行くんだ。

接待やらなんかで」

 

「そうなんだ」

 

「この前も久しぶりに行ってきたんだ。

そのときね、仲のいいホステスと

その…麗子の旦那さんの話になった

んだって。

もちろん、麗子のこと知ってるなんて

言ってないから酔った勢いで

ホステスがいろんなことを聞かせて

くれたらしい」

 

「…うん」

 

「そしたらさ

そのホステスがなんて言ったと思う?」

 

「なんて言ったの?」

 

「私の彼氏はもうすぐ離婚が

成立して私と一緒になるんだって。

そしたら私は設計事務所の

社長夫人になるんだって。

そうなったら今の保険会社も

さっさと退職してやるだって」

 

あながち嘘ではないかもしれない。

 

「そうか…」

 

「まだあるんだよ!」

 

「まだ?」

 

「女がさ、言ってるんだって。

離婚が成立して籍を入れたら

向こうの子供たちと

どうやって仲良くなろうかしらって」

 

「仲良く?

向こうの子供ってうちの子のこと?」

 

「そうだよ!麗子。

母親がろくな母親じゃないから

私が仲良くしてあげるんだって

言ってるんだって!」

 

してあげる……。

 

父親を奪っていった女

母親から夫を奪っていった女

家庭を壊した女

自分たちを苦しめた女

 

美加は

そんな女と子供たちが

仲良くなると本気で思っているのか。

 

仲良くなれる場合もある。

 

しかしうちの場合は……。

 

父親と女がしたこと全てを知ったとき

うちの子供たちは……。

 

全く人の気持ちがわからない人なんだな。

 

私は美加のことをそう思う。

 

そういえば

「うちの美加には友達はいない」

 

そう美加の母親が言っていたっけ。

 

人間社会において

人の気持ちがわからないということは

致命傷だ。

 

そんな致命傷を抱えて

彼女は生きてき

これからも生きるのだろう。

 

可哀そうな人だと

私はそう思う。

 

もちろん

この話を聞いたときは

頭に血が上った。

 

しかし今

冷静に考えるとそう思うのだ。

 

うちの子と仲良く……

 

どうやったらそんな思考になるんだろう。

 

 

 

 


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