離婚調停……

たぶん

いつかは来るだろう

そう覚悟はしていたが

いざ来てみるとやはりショックは

大きかった。

 

それが

「長男悠真の大学進学費用は

やっぱり払わない」という

夫からの手紙と同時で

ショックも倍だ。

 

大学受験は4か月後なのだ。

 

「ところで麗子さん

この旦那さんの住所なんですが…」

と結城弁護士。

 

「住所ですか?」

 

「お気づきじゃないですか?

麗子さんのご自宅の住所と

違う住所が書かれていますね。

この住所はご主人の

ご実家の住所でしょうか?」

 

結城弁護士がもう一度

調停申し立て書を私に見せる。

 

慌てていて気が付かなかった。

 

確かに住所欄に小さな字で

うちではない住所が書いてあった。

 

それは

夫の実家の住所でも

浅見設計事務所の住所でもなかった。

 

見覚えのない住所。

 

嫌な予感がした。

 

まさか…

 

その場で

スマホのマップにその住所を入れてみた。

 

スマホに映し出された

見覚えのあるその家

それは夫の不倫相手美加の家だった。

 

「先生

この住所は不倫相手の女の

家の住所です…」

 

「旦那さんは

少なくても半年位前から

不倫相手の女性の家に

同居されていますよね」

 

「はい。

正確にいつからかはわかりませんが

私がちゃんと確認したのは

半年前でした」

 

「旦那さんはすでに

不倫女の家に住民票を

移されているのかもしれませんね。

そうでないと調停の申立書に

この住所は書かないでしょうから」

 

「え?私と離婚もしていないのに

不倫相手の家に正式に住所を移した

ってことですか?」

 

「そのようですね」

 

衝撃だった。

 

夫が不倫を始めてから

考えられないおかしな言動を

とったことは何度もある。

 

それでも

これはショックだった。

 

夫の中で

私と子供たちとの生活は

もう終わった過去になっている。

 

私たち親子には

とっくに見切りをつけて

夫は新天地で私たちの知らない人と

正式に新しい家族を始めていたのだ。

 

「麗子さん?大丈夫ですか?」

 

「はい…はい…大丈夫です。

ここまでやるかと

ちょっと驚いてしまいまして…」

 

「こんなことをする方は

なかなかいらっしゃいません。

私も驚きました」

と結城弁護士。

 

「先生…でもそれって

その女と不倫関係にあるってことを

自分から認めていることに

なりますよね」

 

「そうですね。

これから調停に向けて

麗子さんが裁判所に提出する回答書に

(夫の不倫が原因で

夫は離婚したがっている)

と書くわけです」

 

「はい…」

 

「そうすると

たいていの場合

(不倫はしていません。

離婚理由は

あくまで性格の不一致です)と

旦那様側は反論するのが普通です」

 

「はい…」

 

「でも住民票の住所がこれでは

そんな反論は通用しなくなりますよね」

 

「はい…」

 

「麗子さん

旦那様が

住民票を移していたことは

ショックでしょうが

これは麗子さんにとって

悪いことではありませんよ」

 

「そうなんですか…」

 

「すでに住民票を女の家に

移していたことは

旦那様の不倫を証明する

証拠の一つになるわけですから。

良いほうに考えてくださいね」

 

「そうですよね…わかりました」

 

わかりましたとは言ったものの

ショックは隠くせない。

 

夫は本気で私や子供達を

捨てようとしていることの

証明だから。

 

そしてその不倫女と本気で

家族になろうとしていることの

証だから。

 

「親権放棄」の件といい

住民票を移している件といい

立ち上がっても

立ち上がっても

私はまたすぐに打ちのめされる。

 

 

 

 

 

 

好きな人が出来たなら

その人と時間を過ごしたくなる

気持ちはわかる。

 

好きな人が出来たなら

その人と籍を入れ

永遠の愛を誓いたくなる気持ちは

誰にも止められないのだろう。

 

我慢して嫌いな人と

一生を添い遂げろとは

さすがに言えない。

 

しかし…

 

しかし…

 

順番があるだろう。

 

好きな人が出来たからといって

先に婚姻関係を結び

3人も子供がいるのに

勝手にその家族をなかったことに

してはいけない。

 

まずそちらとの問題を

ある程度クリアーにしてから

次の女にいくのが

人としての最低のマナー。

 

なぜなら

他に好きな女ができたからと

ぽいっと

捨てられた妻にも子供にも

守られるべき人としての

尊厳があり

 

これからも人間として

生きていかなくてはならない

人生があるのだから。

 

捨てる側は捨てて終わりでも

捨てられる側は

愛する人に

捨てられたという事実を

一生背負って生きていかなくては

ならないのだから。

 

この世は

自分たち中心には

回っていないということを

夫も不倫女も

見えなくなっている。

 

恋は盲目。

 

そんなきれいな言葉では

私の大きな絶望も

いつかこの事実を知る

子供たちの心の痛手も

到底片づけらることではないのだ。

 

確実に

私たち家族は

崩壊の方向へと向かっている。

 

私や子供たちの意志とは

全く逆の方向へと。

 

いよいよ恐れていた

法廷での戦いが始まる。

 

子供たちの生活と

なにより子供たちの

大事な未来をかけた戦いが。

 

私の味方は結城弁護士ただ一人。

 

 

私は絶対に負けるわけにはいかない。

 

期日は丁度一ヶ月後だった。

 

 

 

この時は

先生との付合いが

まさか6年にも及ぶことになろうとは

私はまだ知る由もない。