翌日私はある人に電話をした。
昨年、市議会議員の事務所で、私が夫と義父と女の家族に吊し上げにあった際、その事務所でばったり会ったママ友だった。
長男の同級生の保護者の中で我が家のこの惨状を知っているのは彼女だけ。
しかも彼女は子供が3人おり、既に2人を大学に送り出している。
「そういうわけなんだけど。どう思う?やっぱり夫の現住所にうちの住所書いたらまずいのかな?」
「でもほんとの住所書くとしてよ?旦那さんが今ほんとに住んでいる場所って義父の家じゃないでしょ?」
そうだ。
夫が本当に住んでいる家は、家族のいるうちでもなく、義父母が住む実家でもなく不倫相手美加の家だった。
「悠真くんたち、お父さんが今ほんとはどこに住んでいるか知らないんでしょ?」
「もちろん、不倫のことは何も言ってない」
「だったら不倫相手の住所書かせるわけにいかないよ」
とママ友。
その通りだ。
「でも、なにもないかのように、住んでいないのに、うちの住所を書くのが嘘をつくみたいでいやだって言う悠真の気持ちもわかるんだよね」
と私。
「そりゃあ願書なんて大事なものに、嘘書きたくないよ」
「でしょ?大学側で調べたりしないのはわかってるんだけどね」と私。
「わかる。悠真くんも悠真ママもまじめだからね」
「神経質になりすぎだよね、やっぱり」
「いやいや、気持ちはわかるよ。悠真くん、受験に集中させてやりたいね」
「そう」
「ねえ、いっそ担任に相談してみたら?だって願書って言えば、悠真くんだけじゃなくてその後に美織ちゃんの高校受験だってあるじゃない。その時また願書書くわけだし、私たちで無い知恵絞るより受験に詳しい担任の先生にきちんと相談して間違いがないようにしたほうが、すっきりするんじゃない?」
「そうだよね…学校に聞くのが一番だよね」
もちろん学校には、我が家に起きていることは何一つ話してはいない。
「別になにも無いとは思うけど、なにかあってもちゃんと学校に相談して書いたってなれば、勝手に違う住所書いたってなるよりもいいでしょ?」
とママ友。
なるほど。
夫が住んでいる本当の場所は不倫女の家。
しかしそんな見知らぬ住所を、子供達に書かせるわけにはいかない。
「ありがとう、そうしてみるよ」
あなたたちのお父さんは義父の家ににいる…
子供の心を守ろうと咄嗟についた小さな嘘。
その嘘を隠すためにまた一つ次の嘘。
そしてまたきっと次の嘘。
本当のことを言わない限りは、小さな嘘をこれからも私は積み重ねていく。愛する子供たちに。
私は大嘘つきの母親だ。
私はいったいいつまで、子供たちに嘘をつき続けなければならないのだろうか。
私はママ友の提案通り、悠真の高校の担任の先生に相談することを決めたのだった。