一回目の離婚調停から

丁度一ヶ月。

 

今日は2回目の

離婚調停の日だ。

 

当然子供達には

父と母が

離婚調停をしていることなど

一言も伝えていない。

 

そればかりか

夫が家を出て行った理由が不倫で

今その女の家に住んでいることも

一切伝えていない。

 

そんな事実を

センター試験まであと2ヶ月の悠真に

高校受験まであと4か月の美織に

言えるはずがない。

 

もちろん

子供たちは

父と母の間に

なにかがあるのは察している。

 

でも今現在

この家で

今まで通りに生活ができ

信じる信じないは別として

義母の体調不良のためにという

私がでっち上げた

父が帰らない大義名分が

あって。

 

その上

夫が子供達と進学について

話合いをした際に

父親から直接進学の許可を

もらった事実がある。

 

これが私が

子供たちのために

なんとか揃えた精一杯の現実。

 

もちろん

全然足りないのはわかっている。

 

でもこれが

この時私にできる

精一杯だった。

 

心の中までは分からないが

私が見たところ

とりあえず子供達の気持ちは

今は進学に向いていて

くれているように見える。

 

受験が無事終わるまで

私はこの現状を守りたい。

 

受験に集中させるために。

 

 

 

 

 

前回の調停で

結城美佐子弁護士からの

 

「進学費用は子供達との約束通り

夫健太郎が持って出た預金から

支出するということでいいのか」

 

という問いに対して

夫は次回の調停で回答すると述べた。

 

普通の父親なら

例え妻に

愛情がなくなったとしても

子供に対してひどい仕打ちは

できないのではないだろうか。

 

普通の父親なら…。

 

しかし

夫は今や普通ではない。

 

もし万が一2回目の調停で

 

「大学進学費用は一切出さない」

と言ってきたら……

いったい私はどうしたらいいのだろうか。

 

そう思うとこの一ヶ月

私は生きた心地がしなかった。

 

 

 

 

私はスーツに着替えると

車に乗り込んだ。

 

2回目の調停とはいえ

慣れることはなく

やはり動悸がして

手の指先が異様に冷たい。

 

裁判所が見えた。

 

駐車場に夫のベンツはまだない。

 

前回同様

私は夫と顔を合わせるのが怖くて

急いで駐車場に入ると

受付を済ませ一人相手方待合室に

駆け込んだ。

 

「麗子さん、大丈夫ですか?」

 

私も

充分に早めに着いているのだが

待合室にはもう結城弁護士がいて

私にそう声をかけた。

 

「先生。

こんなに早くにすみません」

 

「麗子さん、

顔色がすぐれないけれど

具合悪いんじゃないですか?」

 

「先生

私長男の大学進学費用のこと

夫がどんなふうに言ってくるのか

考えると怖くて怖くて夜も眠れなくて」

 

「そうでしたか。

そうですよね。

もう2ヶ月後にセンター試験ですしね。

お気持ちお察しします」

 

「先生、もし、もしなんですけど。

夫が一円も出さないって言って

きたとして」

 

「はい」

 

「調べてもらえば

すぐにわかることなんですけど。

あの通帳には私の20年間の給料が

毎月毎月そっくりそのまま

入っているんです。

なにもあの預金は

夫が働いたお金だけが

入っているわけじゃないので。

私の分だけでも出すように

強制できないんでしょうか」

 

「常識的に考えれば

今麗子さんがおっしゃったことが

もっともで理屈が通っているんです。

でも、法的には名義が健太郎さん

である以上、その預金は健太郎さん

のものということになります」

 

「私の分だけ返してもらうことは

できないってことですか?」

 

「離婚でも決まればもちろん

別居時に遡って麗子さんの取り分を

強制的に取ることはできます。

でも現在離婚が成立しているわけ

でもないので

出すか出さないかは最終的には

健太郎さんの意思ということになります」

 

「そんな…」

 

私は絶望した。

 

20年前結婚し

義父の設計事務所に

事務員として入った私。

 

「お前の給料も

健太郎の通帳にまとめて

入れておくからな」

 

半ば強制的に

そして高圧的に義父はそう言った。

 

22歳で嫁に来た

世間知らずの私は

それを拒むことが出来なかった。

 

まさか

こんなことになったときの

用心のために

義父はそんなことを言ったのでは

ないよね。

 

そんな恐ろしい想像が

ふと浮かんで

私の気持ちは益々堕ちていった。

 

どうか…

どうか…

夫が父としての気持ちを思い出し

大学進学のための費用は出すと

言ってくれますように。

 

もう私にできることは祈ることだけ。

 

その返事が今日夫からもたらされる。

 

午前9時30分

第2回目の離婚調停が今始まった。

 

 

 

 

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