私の携帯に

事務所を辞めた木村から

電話があった。

 

久しぶりにちょっと会えないかと。

 

20年一緒に仕事をして

こんな風に

木村と2人で会うのは

初めてだった。

 

私たちは

喫茶店で待ち合わせをした。

 

「奥さん

その節は突然辞めることになって

ご迷惑おかけしました」

 

「そんな

あれは所長のせいで

木村さんは何一つ

悪くはないじゃないですか」

 

「実は事務所を辞めてから

所長の噂をずいぶんと聞きまして」

 

「・・・・・」

 

「奥さんが

きっと苦しんでいると思うと

なんだかこっちまで

気が滅入っちゃってね。

長い付合いですからね」

 

私も夫も

大学を出てすぐに

義父の設計事務所に入った。

 

それぞれに

仕事を一から教えてくれたのは

木村だった。

 

「そうか。

ご心配かけてすみません」

 

「今はどうしてるんですか?所長」

 

「ここだけの話なんですが。

健太郎さん家を出て

不倫相手の女の家に

転がり込んだみたいです。

今もそこで生活してるみたいで」

 

「それも聞いています。

奥さん、もう出るとこに出てはっきり

させた方がいいんじゃないですか?

悠真君だって美織ちゃんだって

もうすぐ受験でしょ?

誰の目からどう見たって所長が悪いのは

一目瞭然ですよ。

出るとこ出れば

どうやったって奥さんが負けるわけがない」

 

出るとに出てはっきり…

それは私だってもちろん考えている。

 

しかし

肝心な証拠がなければ

出るところに出ても

知らぬ存ぜぬで突っぱねられたら

どうしようもないのだ。

 

「でも、法に訴えるには

それそうおうの証拠がいると

ネットにも書いてありました・・・」

 

「証拠か

証拠ってどんな?」

 

「夫が女と不倫している証拠です」

 

「具体的には

どんなものが必要なんですか?」

と木村。

 

「二人が

ホテルに入る写真とか動画とか。

女の家に帰っているって証拠とか。

でも探偵なんて雇うお金もないし。

私なりに尾行したりはしてみたんだけど。

女の家の前に健太郎さんの車があるのを

写真に撮るくらいが精一杯で。

子供に嘘ついて夜な夜な外に出るのも

限界があるし。

もうどうしたらいいのか…」

 

「奥さん

GPSって知ってますか?

今は安価でネットで購入できて

その人がどこにいるか

パソコンで確認できるんですよ」

 

「ええ、知ってはいます。

でもそれを買ったところで

夫の車に付けなくちゃ

ならないんですよね?

事務所の窓から駐車場は丸見えです。

私が夫の車の周りをうろうろしてたら

いかにも怪しいですよね。

いつどの窓から夫が見てるかわからない。

私、夫がとても怖いんです。

夫の車につけるなんてことして

もし見付かったらと思うと

怖くて怖くて、それは無理です」

 

「それなら俺が社員の誰かに

やらせます。

みんな所長の最近の横暴ぶりは

知ってるし、奥さんに同情しています。

だから協力してくれるはずです」

 

「でも、そんなこと社員さんに

やらせるわけにはいきません。

もし夫に見られたらその人が

大変なことになる」

 

「そんなこと言ってる場合ですか?

奥さんもっと強くならなきゃだめだ。

あの社長相手にきれいごと言ってたら

勝てませんよ。

まして所長の後ろにはあの父親が

ついてるんだから。

もし奥さんがやる気になったら

連絡ください。

俺たちはいつでも協力します」

 

そう言って木村は帰っていった。

 

木村のいう通りだ。

 

怖いなんて甘いこと言ってる場合か。

 

私には守らなくちゃならない

子供達がいる。

 

 

 

私はその夜

子供達が寝静まったリビングで一人

GPSなるものを検索した。

 

買うと高価だが

レンタルもあると書いてある。

 

私は思いきってレンタルGPSを

申し込んだのだった。

 

 

 


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