年越しの件を
夫にお願いして一週間。
その後夫からは
帰るとも帰らないとも返事はない。
でも
「子供のため」
そう強調した私の言葉に
夫が動いてくれることを
私は祈っている。
大晦日夕方6時過ぎ
家のガレージに車が停まる音がした。
カーテンの隙間から外を覗くと
それは夫の車だった。
帰って来てくれたんだ。
私は夫と会いたいわけではないが
ただ子供達に安心を与えて欲しかった。
私は急いで玄関のドアを開ける。
「おかえりなさい」
これで子供達に
不安な年越しをさせずにすむ。
ほっとしたのも束の間
玄関に立つ夫の姿にぎょっとした。
見たこともないおしゃれなメガネ
20代の子が着るような
ダウンジャケット
真っ赤なジーンズ。
以前の夫の趣味とは
かけ離れ過ぎたその出で立ち。
これが美加の趣味か。
それは
クリスマスか年末に
夫と女が二人で買い物に出かける様を
私に連想させた。
この2ヶ月で
夫はこんな格好を
するようになったのか。
夫は無言で
リビングのソファーの
いつもの場所に座る。
夫がいつ来てもいいように
既に料理の支度は出来ている。
私は二階の子供達を呼んだ。
子供達には予め
夫が来ると思うということを
告げていた。
二か月ぶりに家族5人で囲む食卓。
二ヶ月ぶりに会う父と子供達。
初めは父親の
変わった出で立ちに驚き
よそよそしかった子供達。
しかしそこは親子で
夫と子供達がいつも通りに
接するのに
たいした時間はかからなかった。
子供たちが2か月も帰らぬ夫を
受け入れたのだ。
子供達と夫の共通の話題は
いつも流行のゲームや
漫画のこと。
夫も子供達も
たわいもない話で盛り上がり
お互いに遠慮のない
昔通りの楽しげな会話が始まる。
リビングには夫と子供達の
楽しげな声が広がっていった。
私はといえば
料理や飲み物を出したりしながらも
このしあわせをしみじみと
噛みしめていた。
夫の不倫や別居など
一瞬頭から消えるひととき。
子供達の楽しげな笑顔が
なによりも嬉しかった。
久しぶりの父親に
どんなに安心しただろう。
この時間が永遠に続けばいいのに。
私がそんなことを
思っている矢先のことだった。