安藤社長の笑い声と

周りの楽しげな雑音を

私の耳に残したまま携帯は切れた。

 

夫が不倫…。

 

全く疑っていなかった

と言ったら嘘になる。

 

でもそれはこの瞬間まで

私の想像でしかなかった。

 

この日この言葉を聞くまでは。

 

しかし私の抱いていた疑念は

今夜目の前で現実に姿を変え

突然私にその醜い牙をむいた。

 

頭の中が真っ白だった。

 

この世に生れて43年

私はこの小さな田舎町で

不倫なんて

都会かテレビの中の出来事と

思って生きてきた。

 

まさかそれが

私達夫婦に起きようとは。

 

この夜私は

夫の不倫を知る他人から

その事実を聞いた。

 

もし出来ることなら

私は夫を信じたい。

 

私たち二人には

こつこつと積み上げてきた

24年の歳月があり

何より愛する三人の子供達が

いるのだから。

 

安藤社長の言葉が

何度も何度も頭の中を駆け巡る。

 

 

 

午前三時

夫が代行車と共に帰ってきた。

 

どうしよう…。

なんと言おう…。

事実を聞いたところで

また暴れるかもしれない。

 

そうなったら今度こそ

子供達に気付かれるかもしれない。

それだけは絶対にいやだ。

どうしよう…。

 

私の座るベッドの横の壁の

夫が拳で開けた穴を見つめる。

 

 

 

玄関の鍵が開く音。

夫が歩き回るスリッパの音が

少しずつ近づいてくる。

 

夫が寝室に入ってきた。

 

ベッドに座り込んでいる私。

 

まだ起きている私を見て

夫はあからさまに怪訝そうな顔をした。

 

 

 

 

 


離婚ランキング