「13年後のクレヨンしんちゃん」
~シロ、オラ、待ってるから・・・~
4
何かにびっくりして、僕はまた戻ってきた。
見なれた僕のお家。
いつもの匂い。
少しはだざむい、ゆうやけ空。
口の中がしょっぱい。
「なんで!!!!!!」
いきなり、辺りに大声が響いた。
びりびりとふるえてしまうような、いっぱいの声。
重たい体をひきずって
回り込んで窓からお家の中をのぞきこむ。
しんちゃんのお父さんとお母さん、ひまわりちゃん。
そして、僕の大好きなしんちゃんも。
みんなみんな、泣いていた。
「母ちゃんの行った病院は、ヤブだったに決まってる!! オラが、他の病院に連れてくぞ!!!」
しんちゃんが、ナミダをぼろぼろこぼしながら、怒っている。
ひまわりちゃんも、うつむいたまま顔を上げようとしない。
「しんのすけ、落ち着け。仕方ないんだ。」
しんちゃんのお父さんが、
ビールの入ったコップをにぎりしめたまま呟いている。
「仕方ないって、父ちゃんは…
ホントにそれでいいの!!!???」
「良いわけないだろ!!!!!」
しんちゃん以上のその大きな声に、
だれもなにも言わなくなった。
その静かな中に、しんちゃんのお父さんの低い声が、
ゆっくりひびく。
「しんのすけ、良く聞け。
いいか、生き物はいつかは死ぬんだ。
それは、俺たちも同じだ。
……もちろん、ひまやお前の母さんもそうだ。それが今。
その時が、いま、来ただけなんだよ。解ってたことだろう?」
しんちゃんは、なにも言わない。
しんちゃんのお母さんも、続ける。
「あのね、ママが最初ペットを飼うのに反対したのはね、
そう言う意味もあるの。
しんちゃんに辛い思いをさせたくなかったから…ううん。
私自身が、そんな辛いお別れをしたくなかったから。
だから、反対してたの。
でも、もうこうなっちゃった以上、仕方ないでしょう?
せめて、最期を看取ってあげることが、
私たちに出来る一番良い事じゃないの?」
「最期って!!!」
しんちゃんが泣いている。
ぼろぼろ泣いている。
手をぎゅっとにぎりしめて。
僕よりもずっと大きくなってしまった手を、ぎゅっとかたく。
僕の体のことは、たぶんだれよりも僕自身が一番知っていて。
でも、いいと思っていた。
このままでもいいって。
だって夢の中はあんなにもあったかくてあまくって。
だからずっとあそこにいても、かまわないと思ってたんだ。
それじゃだめなの?
しんちゃんがこっちを見た。
しばらく目をきょろきょろさせたあと、
僕を見付けて、顔をくしゃくしゃにさせる。
「シロ。」
名前を呼ばれた。
本当に、ひさしぶりに。
「わん...。」
なんとか声が出た。
本当に小さくて、
ガラスごしじゃあ聞こえないかと思ったけれど。
でも、たしかにしんちゃんには届いた。
しんちゃんが近付いてくる。
窓を開けて、僕に手をのばして。
「大丈夫、オラが、何とかしてやるぞ。」
やっと抱きしめてくれたしんちゃんの胸は、
いっぱいどくどく言っていて、
夢の中の何十倍も、とってもあったかかった。
ねえ、よごれたわたあめでも...。
つづく

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