サンエンアオイ


(三遠葵)  仮名


 *ヒメカンアオイ(A. takaoi)の   秋咲き品種である。


学名 :    Asarum takaoi var sanenense nom.nud.

花期 :  9月~12月

分布 :  長野県南部(南信)・静岡県西部(遠州)・愛知県東部(三河)


  ☆ 名前の由来

分布地である(南信、遠州、三河)これら3つの地域円内に自生する事からの造語であり、三地域の"三" 遠州の"遠"から名付けられている。


一般には、ヒメカンアオイ(姫寒葵   A. takaoi)の開花期は24月とされていますが、長年、広域にわたって分布と開花の調査をした結果 、愛知県を東西に、二分するかのように流れる矢作川(源流は南信にある)の東側である"三河、南信、遠州 "の3つの地域に限り、24月に咲く個体群は一切無く " 秋に開花期を迎える "ヒメカンアオイが自生していることが明らかとなりました。そして、もう一つ分かったことは、その全ての葉裏の色は、明るい緑色をしており明らかに近接する春咲きのヒメカンアオイとは違う。秋に咲くヒメカンアオイには、尾張地方、岐阜県内などで良く見受けられる葉裏が紅い(裏紅)いわゆる昼夜芸をあらわす個体が絶対に存在しません。




葉裏の様子


*ただし厳冬期には、銀葉の個体では寒さの影響と思われる紅葉が見受けられる。





  ☆ 形態

   多年生草本。根茎は短い。節間は短い。

葉は広ハート形からハート形、長さ2.9—9.4 cm、幅2.4—7.8 cm、葉長/幅 1.14、葉基部の厚さ0.21-0.58㎜、縁はふつう平らか少し下面に湾曲、葉基部は開くか又は重なる、先端はふつう少し尖るか丸い、まれに窪む、上面は暗緑色から緑色、ふつう光沢なし、下がり藤模様かあるいは無地、亀甲模様も多い、主脈と子脈は共に少し窪む、葉上面にまばらに長さ0.2—0.5㎜の多細胞の繊毛、葉縁に長さ0.260.62mmの多細胞の繊毛、主・側脈に共に多細胞の短毛の列あり、長さ約0.13—0.5mm、下面は明るい緑色、葉裏の脈は少し隆起、薄い赤紫色、ほぼ無毛だが主脈の先端部に少し繊毛あり、葉柄は暗褐色、まばらに繊毛あり、長さ0.250.8mm、基部の幅平均1.84㎜。托葉、新葉。

花は黄茶色から赤茶色または暗茶色、単一花、腋生、地上に傾状、花梗は長さ1.92—17.88mm。萼筒は短い筒形か稀に浅い鉢状、長さ4.31—10.12mm、幅7.4—11.73mm、開口部はやや開く、直径4.8-10.21mm、ノドは括れないでやや開く、口環あり、幅0.49—1.81mm、口環角度平均103.4度、単細胞の腺毛を伴う。筒外面は花色と同じで紫の細点とスジあり、無毛。萼筒内面は暗紫色、網目状の縦と横の隆起あり、縦数12—24、(多くは1622)、横数45、隆起に単細胞の腺毛あり。縁に三裂片あり、萼裂片は水平か斜めに広がる、三角形から広三角形、先端は尖るか丸い、長さ4.429.65mm、幅7.3013.23mm、平ら、上面基部に単細胞の腺毛あり、下面は無毛、両面に赤紫色の細点あり、萼裂片は萼筒より短い、比0.76

雄蕊 12、二つの輪に、ほぼ無柄、葯は外向き、直線、内輪は長さ1.492.72mm、外輪は1.142.60mm、内外比1.12。花柱は、離生、直立、柱頭は楕円形、長/1.53、外向き、垂直、先端に角状の突起物をもつ、長さ0.892.56mm、先端はわずかに二裂、萼筒の開口部に達するかまたは出る。子房は半ば上位。








  ☆ 分布の隔離

  (本州中部の狭い地域)        その分布範囲は地理的には、矢作川東側から静岡県を流れる天竜川を挟んだ地域(長野県南部・静岡県西部・愛知県東部)であり、この二つの大きな河川が形成され、完全に隔離されたこと。そして、この三遠地域は、地質境界線の断層としての『中央構造線』の左右にあり、更に現在も隆起活動をしている南アルプス・赤石山脈の隆起地域内である。その上、かつては設楽付近には、大きなカルデラが存在していたことも、一般的なヒメカンアオイとは全く違った進化を成し遂げた理由なのかもしれません。








 ☆ 引用参考資料

大鹿村中央構造線博物館

https://mtl-muse.com/study/salpsgeopark/salpsgeopark-highlights/#content



  ☆分布域の環境など

北部地域は500~1200mの山頂付近や渓流沿いの雑木林


中央部地域は100~500mの里山、ゴルフ場周辺の雑木林、広葉樹林下


南部地域は200~500mの山頂部、尾根、峠に多く、低地では湿地周辺


全地域において、植林された明るい杉林にも自生地はあります。


  ☆ 生存に対する脅威

    高齢化に伴い、杉林の枝打ちがなされないこと・森林の下草刈りなどの放棄による笹や羊歯類の蔓延りなどの環境悪化、大繁殖した猪による掘り返しや鹿による食害など


  ☆ 必要な保全対策

     稀少種であることの周知。


  ☆特記事項

          葉が小さく上品なので、古くから鉢植や庭で栽培される。一般には、ヒメカンアオイ" Asarum takaoi "の開花期は24月とされていますが、秋に開花期を迎える 集団である。


  ☆その他   日本固有変種


☆山野草マニアックス vol.42 に新種として記載しました。