終焉(おわり)の物語4 | 蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

自分の人生を変える!と決意したアラサー女子。
2013年5月で前職を退職し、2013年12月に現職。
接客は接客でも、180度違う業界にとびこむ。


後悔しない人生を送るために、
「今」を記録する場所に。

知らない天井。



ぼんやりと天井の木目を眺めていた。

布団が重くて体がうまく動かせない。



「あ、起きた?!」


梅は、のぞきこんできた顔に視線を動かした。


「よかったぁ。若葉さんが熱が下がったら大丈夫よ、っていってたんだけど、ずっと起きないから。」


ニコニコしている少女の顔を見ても、状況はつかめなかった。



「熱中症になっちゃったんだって。山道で倒れてたんだよ~。」

「や・・・ま・・みち・・。」


一気に意識が覚醒した。

飛び起きようとしたところを、少女に止められる。


そうだ、訓練の4日目・・・。

山がけの演習だったのだ。

すごくつらくて、もちろんついていけなくて・・・、途中で何度も吐きたくても吐けなくて、

苦しくて、水も飲めなくて・・・


あぁ、なんてことだろう。

あたしは、気を失ってしまったのだ。


「あたし、行かなきゃ・・・。どうしよう・・・こんなことになって・・・・。」

「何言ってるの!まだ、動いちゃだめだってば。」


私のせいで「鬼女」に村の人がひどいめにあっていたら。

村にいる家族が・・・まさかみんな殺されてたら・・・。


「だめだってば、無理しちゃ。絶対安静って、若葉さんがいってるんだから。」

「私、軍の訓練があって・・どうしよう・・・。」


気だけがあせる。でも、体が動かない。布団からはい出たところで、障子があいた。


「どした?」

「あっ、りゅーあ!」


部屋に男が入ってきた。


「りゅーあ、とめてよ。梅ちゃん、戻ろうとするんだもん、いかなくていいんだよ、っていってよ。」

「あぁ、境の村の女の子か。」


気楽な様子で、梅の前にしゃがんだ男は、ぽんぽんと、梅の頭をやさしくたたいた。


「まだ、体つらいだろ?気にしないでゆっくり寝てな。大の男だって半分は苦しくて吐くような道なんだぞ、

 お前はその半分まで走れたんだ、心配しないで、ゆっくり休みな。」

「そんなこといってられないんですっ!あたしが・・・」


あたしがいかなくては。

「鬼女」の刀が次々と人を斬っていく画が脳裏をよぎる。

あたしのせいだ、あたしがいかないと、

喉の奥がひりひりと痛い。

目の前が曇って何も見えない。

いかなくちゃ、

いかなくちゃ、

あたしが、

いかないと・・・


「鬼女に、みんな殺されちゃうんですっっっ!」








部屋が静まりかえった。






「鬼女」の怒りを買うような自分を、かくまったことがわかって、恐ろしいんだ、この人たち。

歯を食いしばっても、嗚咽がとまらない。




くっ・・・と男の口から息がもれた。

次の瞬間、男が爆笑した。


「りゅーあ!!もう、なんで笑うのぉ!」


と怒っていた少女も、とうとうつられたのか、笑いだした。



「いや、悪い悪い。」


笑いすぎて涙目になっている男は、自分の目をこすりながら、梅の顔をのぞきこんだ。


「おまえが倒れたからってな、流菜はお前の村とか、家族とか、殺したりしないさ。」


それにな、と男は続ける。


「山道にお前探しに行ったの、流菜なんだぞ。」



梅の頭が、その男の言葉を完全に理解するまで、数十秒かかった。

何度も反芻して、急に脳の中でびかっと全てが光った。




「り・・・り・・・・・・りゅ・・・・・・・龍暗様!!!!」




梅は、悲鳴のような声をあげてあわてて平伏した。



「た・・・大変・・・あの・・・も・・もうしわけ・・・あの・・・・すみませんでした!!!!」



自分は、この人の前で、「鬼女」と言わなかったか?

というか、この人は・・・領主さまなのに!!



「あんなにきっぱり、鬼女に殺されるんです!といわれると・・いやはや・・・こんなに笑ったのは久しぶりだな。」

「ちょっと、りゅーあ。りゅーなは鬼女じゃないでしょ、ちゃんといってあげてよ~。」

「でもな、昊(こう)、呼び名が変な争いを起こさないこともあるんだから、捨てたもんじゃないぞ。」

「も~、りゅーあが、そうやってのほほんとしてるから、りゅーなが怖いとこばっかり引き受けてるんだよぉ。」

「まぁ、そうだよな、ごめんごめん。」


頭にぬくもりを感じた。


「具合悪いのに、そんなにいつまでも頭下げてなくていいんだよ、梅。寝てな。」

「そ・・そんな、滅相も―――」

「流菜も反省してたよ。まさかお前が本当に他の男たちと同じことするって、思ってなかったって。」

「そんな、あの・・・だって・・・兵役だから・・あ、いや、あの・・・ですから・・」


でもな、と領主様は、梅の顔をあげさせて、相変わらずしゃがんだままで続ける。


「お前は12の女の子だ。その女の子が、大人と同じことしようとしたって、できないんだから。

いいんだよ。4日間もよく、梅はがんばったんだ。

この城に来るって決まった時から、ずっつらかっただろ。誰もお前をせめたりしないよ。」


くしゃっと梅の髪をなでて、領主さまは、昊、と少女を呼んだ。


「俺は若葉を呼んで、流菜に話してくるから、お前もう少しついててやれ。」

「はぁい。」




梅がその部屋で療養している間、「鬼女」は一度も現れなかったが、領主様は気楽によくのぞきにきた。

昊と梅に、とお団子をもってきてくれたり、きれいな千代紙をくれた。




梅がようやく訓練に合流しようとしたのは、最終日だった。

「あたしも、いっしょにいったげる。」

と昊がつきそってくれた。



ちゃんとはきかなかったが・・昊は・・・あの噂の女の子なのだろうか。

きっとそうだろう。

噂話だけを聞いていたときは、ねたましい気がしていたが、実際にあってみるとそんなことはなかった。



訓練場所は、妙に浮足立っていた。


「どうしたのかしら・・・。」


あぁ、それはね、と昊はニコっとした。


「今日は最後だから、大将戦するんだって。」

「大将戦?」

「そう。トーナメントだって。」

「トーナメント?」

「軍の頂点を決めるの。」

「頂点?」


意味が呑み込めなかった。


「だって、軍を率いるのは、司令官、右将軍、左将軍、でしょ?」

「そう、それを決めるの。」

「だって、司令官は、き・・姫領主さまでしょ?右将軍様も、左将軍様も、最初にいらしたわ。」


ふふっ、と昊は笑った。



「りゅーなは、実力主義なの。名乗り出れば、下級兵だろうが、士官だろうが、参加して決めるの。」

「・・・え?」

「もちろん、りゅーなもやるよ。」



歓声があがった。



「鬼女」が男たちをを引き連れて、あの最初の日と同じようにやってきた。



「それでは、大将戦を行う。くじをひいて、組み合わせを決めて、最後に勝ったヤツが司令官だ。」


前に出た参加する男たちの殺気立った雰囲気の中で、「鬼女」だけが浮いて見えた。

殺気も何もなく、穏やかですらあった。


梅たちが見守る中で、どんどん組み合わせが決まっていく。

右将軍、左将軍もひいた。

そして、「鬼女」もひいた。

昊の話通りだった。



「戦い方は己の一番得意なもので構わない。 あくまで大将戦だ、相手を殺すために行うのではない。

起き上がれなくなったら、そこで終わりだ。」

「まぁ、深手は負わせるようなことはしてほしくないね。」


のんきな声がした。観覧席に領主さまが座っている。


「大事な部下なんだから、これから戦かもしれないって時に、共倒れになるようなことはしないでくれよな。

 ま、その前に俺がとめるけどね。」



あくまで実力者を選抜したいだけだ。負けたからって、落ち込むことはない。

と、いつもと同じ気さくな調子で、領主さまは続けた。



「楽しみだなぁ。」

「昊は心配じゃないの?」

「え?何が?」


昊は不思議そうに、梅の顔を見上げた。


「だって、武器をもってやるんでしょ?あぁいっても、死んじゃうこともあるってことでしょ?」

「あぁ、そんなことはないと思うよ。審判はたくさんいるの、ちゃんと止められる。」



梅ちゃんもおいでよ~、と昊は梅をひっぱって、観覧席の下に連れていく。


「なんだ、お前たちきたのか。」

「だって、久しぶりに見られるから。ねぇ、りゅーあはやらないの?」


はははっ、と領主さまは笑った。


「俺がでたら、弱いのバレちゃうだろ。」





志願しなかった下級兵が周りを囲むようにして、最初の対戦者が向かい合う。



そして、領主さまが号令をかけた。



「始めろ!!!」