終焉の城下は、物々しい気配であふれている。
きな臭い話が、この小国の周辺でうようよわいている。
戦が近付いているのだ。
天下統一という、大きな波が。
近隣の諸国と同盟を結んでの戦か、覇王軍に降伏を求めるのか。
はたまた、一国の全面戦争か。
時は戦国領主時代。
覇権争いが数十年続いている。
民は飢え、殺させ、田畑は焼かれ、困窮、たび重なる戦のために税は増す一方、男どもは戦場の土に倒れる。
どの国も、そんな状況だった。
そんな中、終焉だけは比較的豊かだった。
数年前、二人の兄妹が城を制圧したその日から。
「同盟を結ぶべきではない。疑心暗鬼の他国との同盟は、我らにとっても命取りになる!」
「では、貴殿は覇王に降伏せよというのか!無条件降伏した国が、虐殺されているのだぞ!」
激高してにらみあう重臣たちを見て、領主、緒田龍暗は苦笑いで口をはさむ。
「まぁ、まだ実際にうちが戦するわけじゃねぇんだから。」
「領主、そうは申されましても!!」
「戦するんだってな、司令官がいないうちには決められねぇ、そうだろ?」
のんきな様子が、逆に油となった。
「そうです、姫領主はどこへ行かれたのです!こんな重要なときに!!」
「あの方は軍をなんだと思われているのか!あのざまでは、そもそも戦もままならぬではないか!!」
「では、お前が指揮をとるか?」
その声がその場を凍りつかせた。
「姫領主!」
息をのむ重臣に目もくれず、姫領主、緒田流菜が席に着く。
「なんだ、遅かったな。」
「あぁ、各村に伝令をだした。村の家から一人ずつ徴兵だ。」
そんな勝手な!
というどよめきを黙殺する。
「先日解体した軍の将軍たちも、3日後に出頭させろ。終焉軍をつくる。」
「では、姫領主は・・・覇王軍と戦をされるのですか?」
「いや。」
「今、この時期に解体も同然だった軍を編成するということは、他国を動揺させます。」
「それがどうした?」
流菜の言葉に、一同は継ぐ言葉を失う。
「終焉の軍再編は、他国への踏み絵だ。同盟に動くか、覇王につくか、その動きを探るいい機会になる。」
終焉の兄妹は、この時代の伝説だった。
彼らはたった二人で、しかも数時間もかけずに前領主をその座から蹴落とした。
龍暗は手に取るように軍隊の動きを読み取り、ことごとく動きを封じた。
その才覚に恐れをなし、次々と降伏するものが現れ、軍は崩れた。
だが、城の人間がもっと恐れたのは流菜のほうだった。
軍が崩れたなら、狼藉者は俺一人で十分、と次から次へと腕に自信があるものが二人に挑んだ。
彼女はそれらを瞬殺。自らは傷一つ負わず、顔色一つ変えず。
姫領主、緒田流菜。
時代は彼女を終焉の鬼女、と呼ぶ。