今回は弁護士の選び方についてです。
弁護士選びという言葉はなかなか馴染みがないものだと思います。
これまでに担当した依頼者の方で、「弁護士は裁判の手続きをするだけの人で、自分の言う通りにしてくれればそれでいいと思っていた」と言っていた人がいらっしゃいました。
その方は最初は別の弁護士に依頼していて、自分の希望の方針を伝えて任せきりにしていたそうです。すると判決の直前になって裁判官に「このままだと負けそうですよ」と言われ、その時初めて訴訟が自分の不利に進んでいたと知ったそうです。
結局そのまま判決まで行ってしまい、控訴審では勝ちたいからと新しく弁護士を探して(一審で負けて二審で弁護士を変える方は割といらっしゃいます)、私たちに依頼をしてきたということでした。
相談を聞いてみると、依頼者の方が考える「いい証拠」が私たちからするとそうでなかったり、逆に私たちから見た「いい証拠」をこれを出しても意味がないと思ったりしていました。
そして一審の弁護士は、証拠の良し悪しの判断をせずに、言われた証拠を言われた通りに出していたそうです。これでは法律の知識のない人が本人訴訟をしているのと同じで、その結果訴訟が不利に進んでしまっていたのでした。
依頼者の方は弁護士を探す時に、インターネットで「弁護士なんて誰を頼んでも一緒」と書いてあるのを見て、それなら自分の言う通りにしてくれる人に頼めばいいと思ったということでした。
しかし、一審で負けてしまったことですごく後悔をして、「ちゃんとした弁護士を頼んでいれば」とおっしゃっていました。
結局控訴審では、一審での不利な点をかなり覆す内容で和解することができました。
一口に弁護士と言っても、いろいろなタイプの弁護士がいます。
同じ事件ならだれに頼んでも必ず同じ判決が出るということはなく、このケースのように弁護士によって判決が変わることもあります。
この弁護士はおそらく「依頼者の言う通りにするけれど、訴訟の見立てや経過は報告しない」というタイプの人なのでしょう。逆に逐一何でも報告をする弁護士もいますし、依頼者の言うことは聞かずに自分が最善だと思う方針を強く提案する弁護士もいます。
私の場合は、まず最初に依頼者の方とよく話し合って、どんな結果を求めているのかを知るようにしています。そしてその結果を得るためにはどんな手段を採るべきかを一緒に考え、そこから資料を探し始めます。
この依頼者の方のように、訴訟の方針や証拠選びは自分で考えてやるものだと思っている人は少なくありません。
だからこそインターネットの質問サイトに訴訟に関する質問が多く出ていたり、弁護士がネットで質問に答えるといったサイトが存在しています。
そのような方と、私が一緒に方針や証拠を考えていると、「こんなにやってくれるとは思いませんでした」と驚かれることもあります。
私は事件の解決するにあたって大事なのは、いかに最初にきちんとした戦略を立てるかだと思っています。裁判が進んでから「こういう証拠が必要になった」と探しても、なかなか思うようには見つかりませんし、最初の筋書きとずれてきてしまい、裁判官を説得させることができません。
なので、最初に訴訟をどう進めていくかの筋立てをきちんと組み立てて、過去の判例を参照して証拠を探すように心がけています。
依頼者本人が「これは意味がなさそうだ」と思う証拠でも、実際はすごく重要だったということもあります。そこはプロである弁護士に任せてほしいですし、任せられるような信頼できる弁護士を選んでほしいと思います。
証拠を集めるにはスピードも大事です。たとえば夫の浮気の重要な証拠写真がスマホにあるという場合、うっかりそのスマホを水没させてしまうと証拠がなくなってしまいます。最初に訴訟の戦略を考えてそれに沿う証拠をすぐに確保しておくと、こういったリスクも防ぐことができます。
もっとも、そこまでするのは自分の役目ではないと考える弁護士もいるので、そこはそれぞれのスタンスの違いです。
ただ少なくとも、ある程度、同じような案件について経験のある弁護士を選ぶ方がおすすめです。
たとえばに相談の際に見通しを立ててくれたり、あるいは見通しが立てられないということを伝えてくれる弁護士は、経験のある人と言えるでしょう。
あとは、依頼者と意思疎通を図ろうとしてくれる弁護士も良いと思います。依頼者が自分から話すのを待つのではなく質問をしてくれる人や、「何かいい証拠を持ってきて下さい」とざっくりした指示を出すのではなく「こういう証拠はありますか」と具体的に言ってくれる人がそれに当てはまると思います。
反対に、「私はプロなので全部任せて下さい」と言ったり「うまくやっておきます」とだけ言う場合は、冒頭のケースのように後でうまくいかなくなることが多いです。依頼する側からすると不安な気持ちで相談をしているので、安心できる言葉が出ると任せたくなりますが、経験がある弁護士ほど、勝ち負けに関して安易な言葉はかけません。
また、訴訟の進捗をその都度依頼者に説明できないのは何か都合が悪いからという可能性があります。極端なケースでは、弁護士が独自に和解を進めていた、知らぬ間に判決が出ていたということもありました。
私はどんな案件でも依頼者の方とコミュニケーションを取りながら進めていくようにしています。
これも弁護士によって変わってきますが、私の場合は弁護士の仕事というのは「訴訟に勝つこと」ではなく「最終的に依頼者の方に納得してもらうこと」だと思っています。そのためには、依頼者の方の話をよく聞いて、こちらからもさまざまな提案をして、相手に勝つことに限らず納得のいく結果を導くための最良の手段を一緒に考えることが最適だと考えているからです。
「弁護士選び」という言葉の通り、弁護士は誰に頼んでも同じではなく、依頼者が主体的に選んで決めるものです。
自分がどういった結果を求めているか、どんな弁護士となら一緒にやっていけそうかをよく考えた上で、いろいろな弁護士に当たってみて依頼する相手を決めると、後悔のない訴訟ができると思います。