群馬県のホテルで女性従業員に性的暴行を加えてけがをさせたとして強姦致傷の疑いで逮捕された、女優の高畑淳子さんの息子で俳優の高畑裕太さんが、9日の午後に釈放されました。
裕太さんと被害女性の間で示談が成立して、立件しても公判の維持が難しくなることから、前橋地検では裕太さんを不起訴処分としました。

そしてこの不起訴処分と釈放を受けて、裕太さんの代理人となった渥美陽子弁護士がマスコミ各社へFAXでコメントを発表したのですが、この内容は何とも不可解なものでした。

渥美弁護士のコメントは以下の通りです。

「今回、高畑裕太さんが不起訴・釈放となりました。

 これには、被害者とされた女性との示談成立が考慮されたことは事実と思います。
しかし、ご存知のとおり、強姦致傷罪は被害者の告訴がなくても起訴できる重大犯罪であり、悪質性が低いとか、犯罪の成立が疑わしいなどの事情ない限り、起訴は免れません。お金を払えば勘弁してもらえるなどという簡単なものではありません。

 一般論として、当初は、同意のもとに性行為が始まっても、強姦になる場合があります。すなわち、途中で、女性の方が拒否した場合に、その後の態様によっては強姦罪になる場合もあります。

 このような場合には、男性の方に、女性の拒否の意思が伝わったかどうかという問題があります。伝わっていなければ、故意がないので犯罪にはなりません。もっとも、このようなタイプではなく、当初から、脅迫や暴力を用いて女性が抵抗できない状態にして、無理矢理性行為を行うタイプの事件があり、これは明らかに強姦罪が成立します。違法性の顕著な悪質な強姦罪と言えます。

 私どもは高畑裕太さんの話は繰り返し聞いていますが、他の関係者の話を聞くことはできませんでしたので、事実関係を解明することはできておりません。

 しかしながら、知り得た事実関係に照らせば、高畑裕太さんの方では合意があるものと思っていた可能性が高く、少なくとも、逮捕時報道にあるような、電話で「部屋に歯ブラシを持ってきて」と呼びつけていきなり引きずり込んだ、などという事実はなかったと考えております。つまり、先ほど述べたような、違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし、仮に、起訴されて裁判になっていれば、無罪主張をしたと思われた事件であります。以上のこともあり、不起訴という結論に至ったと考えております。

 高畑裕太さんは、心身ともに不調を来していることから、しばらくの間入院されるということです。」


このコメントの内容は、弁護士だけでなく、一般の方から見ても不可解だったようで、当事務所宛てにマスコミから多数の取材申し込みをいただいています。
そこで、このコメントについて、私の見解を述べたいと思います。

まず、このコメントが高畑裕太さんの了承なく出されていることはありえないので、コメントの内容は裕太さんの意を汲んだものであるはずです。
そして、示談金や弁護士費用を出したのは母親である高畑淳子さんや所属事務所の関係者の方々だと思われますので、その方たちの意向も反映されていることは間違いないでしょう。

渥美弁護士は、法律事務所ヒロナカに所属されている弁護士です。
法律事務所ヒロナカの代表弁護士である弘中淳一郎弁護士は、薬害エイズ事件では安部英氏の一審無罪を、ロス疑惑事件では三浦和義氏の無罪判決を勝ち取るなど、「無罪請負人」として非常に有名な方です。それ以外にも、小沢一郎氏や佐村河内守氏、鳥越俊太郎氏など多くの著名人の弁護を担当しています。

その弘中弁護士が何も意図せずにこういった不可解なコメントを出すはずがないので、このようなコメントを出さなくてはいけなかったことには、やはり背景があるはずです。

それでは、このコメントに関して気になった点を通して、その背景について考察していきたいと思います。

1.高畑裕太さんや高畑淳子さんではなく、代理人が見解を述べるということが珍しい

渥美弁護士はあくまで代理人なのですから、本来なら裕太さんの代理としてのコメントを発するべきなのに、弁護士自身が事件について独自の見解を述べる形になっています。
おそらく、裕太さん自身が弁明をすると世間からの風当たりが強くなることが予想されて、だからといって自身の芸能界への復帰や淳子さんの芸能活動への影響を考えると、何も弁明しないわけにはいかず、そこで代理人が見解を述べるという形になったのではないでしょうか。

さらに言えば、高畑さんは、当然に著名な弘中弁護士に弁護を依頼をしたのに、コメントは一番期が下の二人(いわゆるイソ弁)の名義で出していることにも注目したいところです。
実際の事件は、イソ弁が担当することはあっても、ボス弁の名義が一切出て来ないことにも、何か思惑を感じます。

ちなみに、渥美陽子弁護士は、ある訴訟で相手方になったことがあるのですが、聡明な方です。もちろんこのコメントを発表することにどういう影響があるかはわかった上での対応だと思います。


2.裕太さんと被害者の主張について、具体的な内容に一切触れていない

渥美弁護士は当然裕太さんの話を聞いているはずですが、コメントの中ではその内容に触れていません。また、被害者の主張も当然聞いているはずなのに、それについてもまるで知らないかのような見解を述べています。
これによって、コメントを読んだ人が、渥美弁護士が一体誰の立場で何を言おうとしているのかわからなくなって、まるで中立の法律の専門家が意見を述べているように思えてきます。おそらくこれも渥美弁護士や弘中弁護士の戦略なのでしょう。
また、一般の方には、「弁護人なのに事実関係を知らないわけがない」ということ自体があまり知られていません。ですから、このような書き方をすることで、「弁護人が言っているということは、本当に事実関係がよくわからない事件なんだろう」と思われる可能性が十分にあります。そこも狙いの一つなのかもしれません。

3.強姦致傷罪の起訴について

コメントには、「ご存知のとおり、強姦致傷罪は被害者の告訴がなくても起訴できる重大犯罪であり、悪質性が低いとか、犯罪の成立が疑わしいなどの事情ない限り、起訴は免れません。」という一文があります。
これはミスリードで、強姦致傷でも示談をすれば不起訴になることはあります。しかしこのような書き方によって、今回の事件は悪質性が低く、犯罪の成立が疑わしい例外的なケースだったという印象を与えています。
ストレートに「今回は事案の性質上悪質性が低く、起訴されても無罪になる可能性があったと思います」とコメントすることもできたはずですが、そういう書き方をしなかったことには、何かしらの理由、たとえば悪質性が低くないとされる事情が今後出てくる可能性があるということかもしれません。

4.「一般論として、当初は、同意のもとに性行為が始まっても、強姦になる場合があります」という記述について

この記述もミスリードと言えます。今回の事件で、最初は同意があった(または同意があったと裕太さんが誤解していた)という事情があれば、あえて「一般論として」という書き方をする必要はありません。この一文を挟むことによって、当初は同意があったということを正面からは主張せず、それとなく印象づける効果があると考えたのかもしれません。

5.「事実関係は解明できていない」と言いながら、報道されている事実関係については否定している

「私どもは高畑裕太さんの話は繰り返し聞いていますが、他の関係者の話を聞くことはできませんでしたので、事実関係を解明することはできておりません。しかしながら、知り得た事実関係に照らせば、高畑裕太さんの方では合意があるものと思っていた可能性が高く、少なくとも、逮捕時の報道にあるような、電話で「部屋に歯ブラシを持ってきて」と呼びつけていきなり引きずり込んだ、などという事実はなかったと考えております。」という記述があります。
このように、事実関係は解明できていないとしつつも、少なくとも報道されたようにいきなり部屋に引きずり込んだという事実はない、という書き方になっている点もまた不可解です。
そして、「裕太さんの話を繰り返し聞いた中で裕太さんがそう主張している」という言い方ではなく、「裕太さんの話を聞いたことで弁護人がこう考えている」というワンクッションを挟んだ言い方になっていることで、あたかも中立的な立場の人間が、客観的にそう判断しているという印象を与えているように思えます。

このように細かい点を挙げればきりがないのですが、
・報道された事実関係と裕太さんの主張は違う
・裕太さんが、最初は合意があったと誤解するような事情があったと言っている
・女性は最初合意していたのに途中から嫌になり強姦になってしまったが、裕太さんに対して明確に拒否したわけではなかったので裕太さんが気付かなかった
・以上の事情から悪質性は低い
ということを渥美弁護士(の背景にいる弘中弁護士)としては言いたいのに、いろいろな事情からそれをはっきりと書くことができず、このような玉虫色のコメントになってしまったのではないかと思います。

ただし、このようなコメントを出した結果、高畑裕太さんを守るという代理人としての目的はあまり達成されていないように思います。
示談をする際にこのコメントを公表することも含めて被害者の方の了承を得ていればよいのですが、そうでなければ、被害女性が何もコメントすることができないのをいいことに、一方的な見解を述べているように思われてしまいます。
もちろんそう思われること自体も想定できているはずですが、それでもなおこのコメントを出さなければいけなかった事情とは、一体どのようなものなのでしょうか。

この先、被害女性がマスコミの取材を受けて、インタビューや独占手記などを発表する可能性もあります。
もちろん今回の事件について口外しないという条件と引き換えに多額の示談金が渡されているはずですが、それでも漏れてしまうのが今のマスコミというものです。
今回の事件は、刑事手続上は不起訴処分という形で終息しましたが、今後の展開にも注目していきたいと思います。


この件については、当事務所の田村勇人弁護士が独自の視点でブログを書いております(ブログはこちらです)。
私ともちょっと違う視点で面白いです。

また、小島梓弁護士が金曜日にフジテレビ「ユアタイム」で取材を受けました。
そして明日は、長島功弁護士がフジテレビ「グッディ」に出演します。

この事件、違和感のある対応をしているので、同業である弁護士はかなり注目しています。
当事務所の弁護士もみなそれぞれの視点でお話しすると思いますので、お時間のある方は是非ごらんくださいね。

読者登録してね