よし、かかった。
拙者はより一層馬に力を入れる。隣を走る伝蔵も必死で追いすがる。
「伝蔵、はよ走れ!鬼武蔵に殺されるぞ」
「わかってますって!」
山裾を駆ける二騎の騎馬武者と一人の足軽。
水野の軍勢まではもう間もなく。拙者は軍勢に向かって大声で叫ぶ。
「惣兵衛殿!」
軍勢の先頭、名前を呼ばれた騎馬武者―水野惣兵衛殿はこちらに顔を向ける。
「ん・・・半蔵殿?」
拙者は目で惣兵衛殿に合図を送る。
「鬼武蔵じゃ!」
「何!?」
拙者の言葉に惣兵衛殿が驚いている間に、拙者と伝蔵は水野の軍勢の中に駆け込む。
その直後、惣兵衛殿の掛け声が周囲に轟く。
「て、鉄砲隊、撃てぇ!」
凄まじい銃声と共に馬の鳴き叫ぶ声が聞こえる。
拙者はすぐさま振り返り鬼武蔵の方に目を向ける。
倒れた馬の近くで横たわる鬼武蔵。小刻みに体を震わせている。
拙者は馬を走らせ鬼武蔵の元へ近づく。
馬上から鬼武蔵を覗くと、見事に眉間に銃弾の穴があいている。
・・・終わった。『鬼』にしては呆気ない最期だったな。
拙者が片手で鬼武蔵を拝んでいると、突如素っ頓狂な声が聞こえて来る。
「お頭~」
声の主の方に目をやると、そこには弓を携えてこちらに向かって来る足軽の姿がありました。
伝蔵の弟・大蔵であります。
「お頭~置いて行かねぇでくだせぇ」
大きな体を揺らし、息を切らしながら拙者の元までやって来た大蔵に拙者は質問する。
「他の者たちはどうした?」
「直に来ると思いやす」
そう言った直後、倒れた鬼武蔵に気づく大蔵。
「おわっ、派手に死んどるな」
「鬼は死んだ。後は池田軍じゃ」
「池田軍なら、ここから東の方に旗印が見えましたぜ」
「・・・ほうか」
拙者は東の方角に目を向けると、二人の足軽の名前を呼ぶ。
「伝蔵、大蔵!」
「へい!」
大声で応える足軽二人。拙者は二人に視線を移す。
「もうひと戦いくぞ!」
「おうよ!」
拙者は二人の声を聞くと馬を駆ける。
目指すは、池田軍!
・・・・・・・・つづく