大和西の京 墨運堂さんの墨
               万葉の墨を再現した「ともしび」


               文字は友人の書家に書いて頂いたもの

墨運堂さんとご縁の深い方と共にお訪ねすると、数十年前に作られた名墨が、幾段にもなる木製の引き出しの中から魔法のように現れました。どうぞ書いてみて下さいとその中のひとつを摺って下さいました。私は陶芸の事ならほんの少しは分かるつもりですが、書については全くの門外漢。おそるおそる半紙に向か い、墨を落としてみましたら、青墨の色の深さに改めて驚きました。単純に黒とか、青っぽい黒とかいえない深く微妙な色合いなのです。墨というものに畏敬の気 持ちが生まれた瞬間でした。この旅の大収穫です。この時買い求めました墨は20年前に作られたもの。桐箱の中でお眠り頂いて、10年後を楽しみにしたいと 思います。

     墨はススの善し悪しで決まると言われ、墨づくりの名人たちは、スス(煤)
     の材料となる菜種と松ヤニにこだわり、古来厳しい目を注いだようです。
     その墨、昨今は材料の調達が難しく、墨の美を維持していく事が困難になっ
     ているとの事。膠、煤の生産現場が消滅していきつつある中で墨の文化を維   
     持していくにはどうしたら良いのか、大変厳しい状況にあると墨運堂さんは   
     おっしゃっていました。処方は墨汁とかでなく墨の需要をいかに増やすかiに
     あるようですが。


 「墨には無常がひそんでいると思う」とは書家、榊莫山さんの言葉です。墨は作られてから40~50年過ぎた頃に最も美しい時期を迎え、百年もたつと老化し死を迎えるともおっしゃっています。人の一生と似ているかもしれません。墨は摺られることで、姿形を失います。摺られた墨は紙に書かれて初めて墨の色が現れ立ち、ひとたび紙に書かれた墨色は千年変らないというのです。たかが墨と侮るなかれ。改めて墨について調べてみますと、墨は想像を超えて遙かに神秘的なのでした。


唐招提寺にいらっしゃる折には、その前にぜひ墨運堂さんをお訪ねになってみて下さい。西の京駅〈西側〉から徒歩5分位のところにあります。資料館・墨工場見学、自分の手のひらで握る墨体験〈乾燥して3ヶ月後に自宅に送付して下さる由〉もできるようです。問い合わせ℡0742-41-7155
                 この旅は京都へと続くのですが、とりあえずは終わりにします。