『おでかけ料理人 佐菜とおばあさまの物語』(著/中島久枝)
主人公の佐菜は大店のお嬢様。博識の祖母と別邸で暮らしており、使用人に囲まれて何不自由な生活を送っていた。
ところが主である父が急逝し後添えだった義母も弟を連れて出奔。たちまち店は立ち行かなくなり人手に渡ることに。
佐菜とおばあさまも今までの暮らしを捨て、下町の長屋に移り住みつつましい生活を余儀なくされた。
人見知りで内気な佐菜を救ってくれたのが料理の腕である。
これはかつて務めていた女中のお竹に仕込まれたもので、丁寧で几帳面な佐菜はきちんとその味を引き継いでいた。
奉公先の煮物売り屋で佐菜はいくつかお菜(おさい)を任され、それが縁で自宅で料理をして欲しいと請われるように。
人見知りで世間知らずな佐菜はよそ様のお宅で料理することに尻込みするが、このままでは祖母も自分も立ち行かなくなると一大決心し『おでかけ料理人』としての仕事を受けるようになる。
行く先々の家庭にはそれぞれの事情や守りたい矜持や、大切な想いがある。
その一つ一つに触れながら、少しずつ広がる世界と共に成長していく佐菜の姿が瑞々しい。
彼女が純粋であるが故、物語がとても透き通っているように感じられる。
佐菜は教養を祖母から、心意気を勤め先の主のおかねから学び得ていく。
また最初は苦手だった煮売り物屋の常連たちの言葉にも、自分がまだ知らない真理が隠れていることを知っていく。
おばあさまと二人きりで越してきた佐菜も、最後には沢山の人達と関わり繋がるようになっている。
そしてそこには、ずっと会いたかった人の姿も。
ゆっくりと真摯に成長していく佐菜の様子と、彼女が手掛ける想いの籠ったお菜が心のコリを解してくれるお勝手時代小説。
癒しのような一冊です。