『ものがたり洋菓子店 月と私』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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『ものがたり洋菓子店 月と私』(著/野村美月)

 

 

ストーリーテラーの居る洋菓子店と概要にあったので、テーマになっている洋菓子の成り立ちや伝統、或いは伝記のような史実を語り伝えてくれるのだろうと予想して読み始めた。

んが、プロの作家が私の安易な発想のままの小説など書くはずもない。

執事のような風貌の完璧美青年が語るのは「月から聞いた」誰かの物語だった。

名も知らない誰かが困難や悩みを克服したとき、傍に寄り添っていた洋菓子の話を語ってくれるのである。

この誰かのストーリーは後々誰のストーリーだか判明するのだが、それは読んでのお楽しみ。

 

自分とは関係のない誰かの話はまるで自分のことのようで、美味しい洋菓子を堪能した後には自分の問題も飛び越えようとする勇気が湧いてくる。

このストーリーテラーは誰かの体験談を通して『自分を大切にしてあげなさい』と語らっているように私には思えた。

自分を大切にすることは、いずれ自分の大切な人のことも大切にすることに繋がる。

この洋菓子店『月と私』で過ごす甘美な時間は、何が大切かを気付かせてくれる魔法に満ちているのだ。

 

そんな不思議な力を持っている『月と私』のケーキだが全て満月・半月・三日月のいずれかの形をしている。看板に偽りなしのラインナップだ。

しかも出て来るケーキは本格的なものばかり。

まず出てきたのは『ムラング・シャンティ』

⋯、知らんな。

次に出てきたのは『タルト・オ・シトロン』

これはなんとなく分かる、と思ったら続く解説にパートシュクレとか知らない単語が出てきた(-_-;)

 

ケーキの種類はと問われればチーズケーキやチョコレートケーキ、頑張って気取ってもサヴァランやザッハトルテが精一杯の私には太刀打ち出来ない本格派のケーキ達が次々と出てくる。

それらの形が全て月の形をしてるのだから、ストーリーテラーの説明を聞いて想像してるものが正解なのか怪しい。

これだけ拘って作られる洋菓子だからこそ、疲れた誰かの活力になってくれるのだろう。

 

 

と、まともな感想はここまで。

ここからは直球な私見を語らせて貰おう(笑)

 

洋菓子店『月と私』は少々変わっている。

ストーリーテラーがいる時点でとんでもなく異質なのだが、このストーリーテラーが漫画から抜け出てきたかのような美青年で物腰も語らいの口調も洗練され客の心を鷲掴みにしていく。

パティシエはうら若き女性で、ちらと横顔を見ただけで惹き付けられるほどの綺麗な人だ。

そして真新しく改装された明るい店内、ショーケースに並ぶのは宝石のごとく目映いケーキたち⋯。

 

あまりに出来過ぎてて胡散臭い(爆爆爆)

 

まあ、この店を訪れた人生に疲れていたり悩みを抱えてたりする人はそれくらい現実離れした店のほうが癒されるかもしれないが。

(それにしてもキラキラが過ぎる)

 

麗しのストーリーテラー・語部(かたりべ)が『月と私』のパティシエ・糖華と出会い、彼女を守り自信を取り戻させたか、その様子は作中で少しずつ判明していく。

彼の経歴など謎の部分もあるが、その成果は評価せざるを得ない。

こんな優雅で万能なストーリーテラーの居る洋菓子店に私も行ってみたい!と本編を読んでいた時は私も熱を持って思っていた。

 

しかししかしである。

ラストのエピローグを読み、彼の心中を知った時に私は引いた。

ドン引くほどではないが、それなりに彼への興味が冷めた。

たぶん普通の乙女が読んだら『語部さんって一途ドキドキ』となるのだろうが、私にはちょっと行き過ぎな人に感じてしまったのだ。

詳細を書くとネタバレになるのでここまでで我慢するが、一度読了してる人と意見のすり合わせをしたい案件である。

 

可憐なパティシエ糖華は、もしかしたら厄介な異性を惹きつけてしまう星の元に生まれているのかもしれない。